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「とりあえずチャレンジしてみろ!」僕に“奇跡の逆転満塁本塁打”を打たせてくれた西武・渡辺久信GMの考え方

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

2023/10/22
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渡辺監督も驚愕の“奇跡”

 捕手として思うような活躍ができなかった僕は、早速その日の個別練習からキャッチャーミットを外野用グローブに持ち替え、外野守備走塁コーチの河田雄祐さんに外野ノックを打ってもらい守備練習を開始した。

 が、思っていたより難しく、初日にして自信を無くしてしまった。

 当時、僕はまもなく30歳になろうとしていた。野球というスポーツでは、もうベテランの域に入っている。本当に今から外野手に転向して、今までキャッチャーしかしたことのない自分が慣れない守備と「外野手=打ってなんぼ」の厳しい世界で勝負できるのか……。

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 いろんな想いがあったが、もうやるしかない! これでダメだったら、プロ野球をやめるだけだ。「命まで取られるわけではない」と自分に言い聞かせていた。

 河田コーチは毎日のように外野ノックを打ってくれた。ときに厳しく、ときに優しく(笑)。本当にありがとうございました。

 そして次のシーズンの2012年4月26日、奇跡は起きた。文春野球でも書かせてもらったように、Yahoo!JAPANドーム(現PayPayドーム)での福岡ソフトバンクホークス戦で、絶対的守護神のファルケンボーグから逆転満塁ホームランを打ったのだ!

 文化放送の斉藤一美アナ、名実況をありがとうございました。その模様を伝えるYouTubeの動画はいまだに再生回数が伸びています(笑)。

「奇跡のグランドスラム」と言われ、多くのライオンズファン、プロ野球ファンに覚えてもらえる一打になった。

 映像を見返すと、打った自分もビックリしていたが、ベンチにいた渡辺監督も「嘘だろ!?」という驚いた表情でコーチ陣と握手している姿が映っている。渡辺監督に、こんな表情をさせた選手は僕だけではないだろうか?(笑)

「よねー! ナイスバッティング! 凄いぞー、よく打った!」

 ベンチに帰ってくると、満面の笑みでそう言ってくれた。

 今思えば「奇跡のグランドスラム」は当時監督だった渡辺GMが先入観を持たず、外野にチャレンジするように勧めてくれたことが始まりだった。まさか外野に挑戦した1年目から開幕一軍に入り、あんなにいい場面で打席に立たせてもらえるとは思っていなかった。

 渡辺GM、外野手にチャレンジさせていただいたことを感謝しています。本当にありがとうございました。

優勝して男泣きして……

 あれから10年以上が経ち、ユニフォームを脱いだ僕はベルーナドームのライトスタンド後方でピンクのお店「BACKYARD BUTCHERS」を営業している。多くのファンの皆様に来店していただき、「奇跡のグランドスラム、すごかったよ!」とお褒めの言葉をもらえるのは本当にうれしい。

 11月26日(日)にはライオンズサンクスフェスタがあるので、ぜひお待ちしています(笑)。

 ライオンズOBで、お店を営業させてもらっている者として、ファンの皆様にお願いがあります。

 球団、そしてチームにとって、強いときも弱いときも変わらぬ愛で応援してくれるファンがいてくれることは本当に心強い。僕が選手という立場でグラウンドに立っていたとき、なかなか結果が出ていない時期でも、いつもと変わらずに応援してくれたファンの存在が心の支えになった。

 同様の声援を、今のチームにも向けていただけるとありがたい限りです。今シーズンは5位という悔しい結果に終わったが、チームとファンが一体一丸となり、近い将来必ず復活する、常勝ライオンズを一緒に見ましょう!

 そんなチームを先頭に立ってつくろうとしているのが渡辺GMだ。監督を務めていた2008年、就任1年目にリーグ優勝を果たしたとき、人目を憚ることなく涙を流しながら、こう言ったことを覚えているファンの方も多いのではないだろうか。

「こんなに泣いたのはオグリキャップの引退レース以来だ」

 あれから早くも15年。

 今度は球団最高責任者のGMという立場で、理想の常勝軍団を作り上げてリーグ優勝し、日本一になり、男泣きする渡辺久信GMを僕は見たい。

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