「今日こそは未到の奥地をめざして……」
アマゾンの探検隊ではない。耳かきの話だ。
人に耳を掃除してもらうことを好んで、お金を払ってそんなサービスを謳った風俗まがいの店に通う人がいる。
中には、耳かきという行為そのものが病みつきになり、暇さえあれば竹の棒を耳に突っ込んで、ひょっとこのような表情で快楽をむさぼる人もいる。
でもこの行為、医学的には危険なのです。
新たな収穫物を求めて深部へと挿入を試みる
日に何度も耳の中を引っ掻き回すことを趣味やストレス解消法のようにしている人は、意外に多い。東京・大田区に住む落合真一さん(36=仮名)もその一人。
妻に「我慢しろ」と言われても我慢できない。耳かき棒を隠されても、綿棒を使って耳を掻く。綿棒を隠されても、釘のアタマで耳を掻く。その執念は、何かの中毒患者のようでさえある。
そんなに頻繁に掃除をされたら、耳垢とて溜まる暇もないと思うのだが、それが彼のさらなる探求心を掻き立てる。新たな収穫物(耳垢)を求めて、前回より1ミリといわず、0.1ミリでも、0.01ミリでもと深部への挿入を試みる。
ある一定ラインを越えると激痛を招くことを、彼は経験的に知っている。探索は慎重の上にも慎重を極める。何らかの手ごたえを感じ、抜き出した棒の先には、耳垢ではなく「血」が付いていた……。
そもそも彼にとって、耳垢を摘出することがその行為の目的ではない。耳の中を掻くことで得られる快感が目的なのだ。
耳を掻き過ぎると“かゆみ物質”が分泌される
「耳かきが癖になっている、あるいは我慢できないという人は確かにいます。それ自体は病気ではないけれど、決して好ましいことでもありません」
こう語るのは、東京都保健医療公社荏原病院耳鼻咽喉科医長の木村百合香医師。
「耳かきが癖になっているのは、耳が痒いから。なぜ耳が痒くなるのかといえば、耳を掻き過ぎて“かゆみ物質”が分泌されているから。外耳道に湿疹ができているのです」
外耳道とは、耳の入口から鼓膜までを指す。耳垢が溜まるのは、このうち外側の半分あたりまで。ここを耳かきで引っ掻き回すと、皮膚が薄くなって炎症が起きて痒くなる。痒い所を掻けば、当然気持ちいい。だから耳かき行為はやめられない。でも、どこかで悪循環を断ち切らなければ、落合さんのように血を見ることになる。