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北朝鮮側は「死亡」と回答、遺骨を鑑定すると…外事警察が追いかけた「拉致被害者ニセ遺骨事件」の裏側

『外事警察秘録』#1

2023/12/11

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 韓国・北朝鮮, 社会, 政治

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 有本さんは、モスクワ経由で北朝鮮に連れ出されたことが判明しており、北朝鮮機関の関与と「よど号」グループの暗躍も明白だった。

 石岡さんについては、卒業旅行の途中でスペイン・バルセロナに立ち寄った際に「よど号」メンバーの妻と一緒に行動していた。バルセロナ動物園で石岡さんの旅の同行者が、「よど号」メンバーの妻と石岡さんが並ぶスナップ写真を撮っている。こうした証拠が多数存在するにもかかわらず、北朝鮮は「よど号」グループの関与を一切認めていないのだ。

北朝鮮側の釈明

 我々が示した疑問点に対し、北朝鮮側はほとんど回答しなかった。

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 例えば田口八重子さん(拉致当時22歳)に関して、「当方(北朝鮮)の安全保障の観点もあり、今後提起される質問を考えていただきたい」とかわしてきた。都合の悪いことは一切、聞くなという意味だろう。

 拉致直前の田口さんの足取りは判明していなかったため、拉致実行者とともに東京を出発して船に乗せられたとみられる宮崎までの移動経路、手段の解明は必須だった。

 しかしながら、日本国内で誘拐・国外移送行為を補助した者について詳細な情報提供は全く得られなかった。

 さらに、田口さんが北朝鮮で拉致被害者、原敕晁さん(拉致当時43歳)と同じ招待所で生活していたとする北朝鮮側の説明はこちらの情報とずれがあった。また田口さんが日本語を教え、接点があったとされる大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫工作員との関係も、一切語られることはなかった。

 疑問の数々に北朝鮮が寄越した回答では、「特殊機関がやったことなので、詳細は調べようがない」というものが多かった。組織も改編されており、調査は困難を極めたとの釈明を繰り返すだけだった。

 拉致をめぐる北朝鮮の対応には、ある被害者については帰国させ、ある被害者については「死亡」と説明し、「未入境」として拉致そのものを認めないケースもあるなど不可解な点が多い。

 中でも大きな疑問は、目的を偽り北朝鮮に連行した事実は認めているのに、「よど号」事件や大韓航空機爆破事件のような「テロ」の実行犯の関与を一切認めないことだ。テロリストが関与したとなれば、北朝鮮は「テロ支援国家」としての実態を上書きし、国際社会や米国からの更なる制裁の根拠となる可能性があったからだろう。

 こうした北朝鮮側の「涙ぐましい努力」は、2008年10月11日、米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除で実を結ぶことになる。