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「日本人の神経がどんどん小さくなっている」インド仏教1億5000万人の頂点に立つ日本人僧、佐々井秀嶺氏が語る「今の日本に足りないこと」

佐々井秀嶺インタビュー#1

2023/12/31
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日本人の神経がどんどん小さくなっている

――人のつながりが薄れて孤独を感じることが多い反面、監視社会でいつもどこかで誰かが見ている、そんな社会が息苦しいという声も聞かれます。

佐々井 日本人の神経がどんどん小さくなっているんだろうな。相変わらず周りを見ずに下を向いて黙ってスマホばかりしている。縮まってるんだよ。度量が小さくなっているんです。無駄に心が宙に浮いて乱れているから、先が見えなくて不安なんだろう。ちょっとした失敗で人を安易に攻撃したり、自分自身がちょっと失敗したら「俺はもうだめだ」とすぐ諦める。ひとつ躓くと、なかなか起き上がれない。

 昔は転んでも転んでもそこから起き上がるぞ、という気概があってね。戦争で日本は負けて焼け野原になってしまったけど、当時の若者の間には「新日本建設」という合言葉があったんだよ。

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――新日本建設?

佐々井 「若い力で新しい平和な日本をつくるんだ」とお互いに誓い合ったんだ。だから知らない人同士でも、助け合ったり、食べ物を分け合ったり。みんな貧しかったが精神的なものは今より良かったかもしれない。

 その後、日本は経済成長をして豊かになった。ところが満腹になったら、今度はもうどうにもならん、居眠りをしているような状態だ。そしたら今度は、人の気持ちが小さくなってね。そして神経質になって、もう……。

――満足に食べられるようになったら、人間は気持ちが小さくなるのでしょうか?

佐々井 いい車に、いい家に、いい服。人間は欲がでれば、視界に入ってくるものを買う。すでに持っていても新しいものをさらに欲しがる。経済は成長したが、気が付けば田舎を捨て、お金を儲けて、親を捨て、そして空っぽになってしまったんだ。

菩薩から与えられた使命が人生を変えた

――佐々井さんご自身も若いころは人生に迷われていましたね。

佐々井 そうだったな(笑)。俺は人間失格者で業が深いんだ。若いころの俺は次から次へと湧き上がる絶望や苦悩にもだえ苦しんだ。救われたくて宗教書なんかを読んでも絶望の正体が分からない。苦しみをまぎらわそうと、夜の街をほっつき歩いて酔っぱらって道路にひっくり返っては警察の世話になったり。

――しかし、そんな佐々井さんを、親戚の知り合いというおばあさんが居候させてくれたり、自殺しようとさまよっていたらお寺が拾ってくれたり、得度した高尾山では交換留学僧に選ばれタイに行かせてもらえました。困ると誰かが手を差し伸べてくれますよね。