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「バラエティは絶対出たくない。くだらないから」小泉今日子が語る仕事選びの“重要な基準”とは?

「バラエティは絶対出たくない。くだらないから」小泉今日子が語る仕事選びの“重要な基準”とは?

有働由美子のマイフェアパーソン

note

「利他的」という選択

 有働 49歳で制作会社「明後日(あさって)」を立ち上げて、52歳で大きな事務所から独立されたんですよね。

 小泉 組織の中にいる間は、組織のルールや付き合いがあるので、そこを侵すようなことってあまりしてはいけないと思うんです。でも私にはもっと言いたいことや、やりたいことがあった。中にいたらルール違反になるので、だったら出るしかないなという感覚がずっとあって。それで、親より長い関係のあった会社とじっくり話し合って、いまでは自由になりました。

 有働 私は49歳でNHKを辞めたんです。大きな組織の中にいると確かに色々とありますが、いざ辞めるとなると、後ろ盾がなくなった感覚が怖くて。そういった不安はなかったですか?

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 小泉 まったくなかったですね。別にこの仕事を辞めてもよかったし、自分の人生をちゃんと生きようと思った。逆に、想像したより大変じゃなかったという感じかな。

対談の数日前に小泉さんのライブに行っていた ©文藝春秋 (有働氏衣装協力 レキップ/BIGI、カプリシャス)

 有働 今の小泉さんは「明後日」の社長であり、プロデューサー、女優、歌手もやっているわけですが、それも大変とは感じないですか?

 小泉 わからないことは沢山ありましたけど、ゆっくりやっていけばいいだけですから。自分の生活も含め、今すごく守らなきゃいけないものも持っていなかったから、なんとも思わなかった。コロナ禍になり、予定していた舞台公演が白紙になった時には、キャストやスタッフへの補償のために初借金もしました。それも面白がる余裕がありました。

 有働 「どうしよう」と不安がるのではなく……。

 小泉 そう。自分が気持ちよく次に進めるように、どうせ赤字なら爪痕を残していこうと思ったんです。

 有働 爪痕?

 小泉 下北沢の本多劇場を3週間押さえていたので、白紙になった公演の代わりに、表現の場をなくしていた友人たちに声をかけて、日替わりで演目を並べることにしたんです。社員3人しかいないのによく回したなと思うけど、出演者にもお客さんにもめげてほしくなかったんですよ。

 有働 持続化給付金を受給する選択肢もあったと思いますが、あえて苦労する道を選んだのですね。

 小泉 2020年、NHKでコロナ禍の世界について、各国の著名な学者に聞く特番がありました。そこで経済学者・思想家のジャック・アタリさんが、「コロナ後は利他的な社会になるべきだ」という話をしていたんです。それを見て「そうだ、利他的だよ!」と指を鳴らして、自分より、みんなが幸せになれるような選択をしようと決めたんです。

 有働 ジャック・アタリ! 借金を抱えても、ご自身の多大なる貯金から出せばいいと思われたとか?

 小泉 いや、会社とそれとは別です。多大なる貯金もないですしね。

 有働 テレビも音楽も一番元気だった時代の財産は……。

 小泉 お給料でもらっていたので、人が驚くほどは無いんですよ。

 有働 アイドルって給料制なんですか?

 小泉 事務所との契約によりますが、私はお金のことで文句を言って好きな仕事ができなくなるのはイヤだった。それでも十分にいただいていましたし。だから、大して家とかは買えてない。作詞とか本の印税が入ることがあるけど、それも家族や周囲のことに使うんですよね。

 有働 わかります。歳を重ねるごとにかかるようになりますよね。

 小泉 だから会社は会社の会計で、借金はゆっくり返しています。