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人間がAIに勝つためには「読解力」を磨くしかない

伊藤氏貴が『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子 著)を読む

2018/04/09
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著)

 先日惜しまれつつ世を去ったホーキング博士は、数年前に「完全な人工知能(AI)が実現すれば、人類は終焉を迎える」という意の発言をしていた。いわゆる「シンギュラリティ」、つまりAIの進化が人間のそれを上回るという「技術的特異点」のことだ。

 しかし、東大合格を目指した「東ロボくん」の開発者である著者は言う。「AIが人類を滅ぼす?……滅ぼしません!」「シンギュラリティが到来する?……到来しません!」。それどころか、東大合格すらAIには無理だろうと言うのだ。

 とはいえ、個人的にあまり笑っていられない。「東ロボくん」は既に私の勤める大学の入試は十分に突破する偏差値を模試で叩き出している。では、MARCHレベルと東大との入試の間に、AIが決して越すことのできないどのような溝があるというのか。

 それは国語、読解力だ。AIが自然言語を読みこなすことは金輪際できないというのだ。その不可能性の仕組みは本書にあたってもらいたいが、ここでほっと胸を撫でおろすのも束の間、シンギュラリティよりもっと切迫した問題があった。

 実は中高生の多くが、「東ロボくん」以下の読解力しか持っていないということが調査から浮かび上がってきた。二つの文章の意味が同じかどうかを判定する問題で、中学生の正答率はなんと57%。しかも、それを聞いたある新聞記者が、57%もあるなら悪くないんじゃないかと言ったそうで、もうこうなると日本人の読解力は壊滅的と言わざるを得ない。二択の問題なら誰でも五割はとれる。

 他のタイプの問題でも、サイコロを転がすのと同じ程度の正答率しかなかったというこの若者の読解力の現状で、小学校からプログラミングや英語が導入されようとしているが、著者は言う。「一に読解、二に読解」と。そうしなければ、AIの進化を待たずに人間が職場をAIに明け渡さねばならなくなる日が遠からず訪れることになるだろう。

あらいのりこ/1962年東京都生まれ。数学者。イリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学。2011年より「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。


いとううじたか/1968年千葉県生まれ。文芸評論家。明治大学准教授。著書に『奇跡を起こすスローリーディング』など。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

新井 紀子(著)

東洋経済新報社
2018年2月2日 発売

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