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「裏稼業の孤独な男」が「殺された恋人の妹」と復讐の旅へ…『ケンとカズ』監督が2作目も自主製作にこだわったワケ

映画『辰巳』 小路紘史監督インタビュー

2024/04/14

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画

note

死にゆく者の“涙”の意味は?

 本作で非常に印象的なのは死にゆく者が皆、一縷の涙で頬を濡らすショットだ。殺伐な世界に流れる、その意味は何なのか?

「これは撮った僕にもわかりません。ツーッと伝う涙は完全に意図した演出じゃないんです。

 現場では“泣くんですか”とは訊かれはしましたが、具体的に何も言わなかった。涙は出るけど、泣く感じではないということをやりたかったんですが偶然にそうなりました。

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©小路紘史

 でも涙が或る意味を持つ場合は避けたい、泣く俳優は限りたいと思っていたので兄貴役の佐藤さんには泣くなと指示しました。涙の理由は、観客の皆さんに委ねて一緒に考えたいですね」

 ノワールの秀作を続けて撮った後、次回作は何を希望しているのだろう。

「今度は倉本さんの劇団で『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)みたいな戯曲を書いたので、それを撮りたいです。『辰巳』も自分の中では定番の逃亡アクション。だから次回は泣ける王道のラブコメを目指してます!」

 

しょうじ ひろし 1986年広島県生まれ。短編映画『ケンとカズ』が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011にて奨励賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭など4カ国で上映される。16年に『ケンとカズ』を長編版としてリメイク、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、新藤兼人賞銀賞・日本映画監督協会新人賞など数々の新人監督賞を受賞。本作『辰巳』は、8年ぶりの監督作となる。

 

『辰巳』
INTRODUCTION
 自主映画『ケンとカズ』(16年)で多くの映画ファンの度肝を抜いた、小路紘史監督の8年ぶりの待望の新作『辰巳』が公開される。
 日本のリアルな裏社会を描きながら、日本的なものを極力排除した無国籍ムードが全編に漂い、アウトローたちの慟哭とロマンが胸を打つフィルム・ノワールだ。日本映画の枠に収まりきらない自主制作映画が誕生した。
 主人公・辰巳役には『ONODA 一万夜を越えて』の遠藤雄弥。さらに行き場のない怒りを復讐に変える少女・葵役には、注目の若手女優、森田想。そのほか、佐藤五郎、後藤剛範、藤原季節ほか実力派が顔を揃える。

STORY
 裏稼業で働く孤独な辰巳(遠藤雄弥)は、ある日元恋人・京子(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。一緒にいた京子の妹・葵(森田想)を連れて、命からがら逃げる辰巳。 片や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京子殺害の犯人を追う。
 生意気な葵と反目し合いながらも復讐の旅に同行することになった辰巳は、彼女に協力するうち、ある感情が芽生えていく。

STAFF & CAST
監督・脚本:小路紘史/出演:遠藤雄弥、森田想、後藤剛範、佐藤五郎、倉本朋幸、松本亮、渡部龍平、龜田七海、足立智充、藤原季節/2023年/日本/108分/配給:インターフィルム/4月20日公開

「裏稼業の孤独な男」が「殺された恋人の妹」と復讐の旅へ…『ケンとカズ』監督が2作目も自主製作にこだわったワケ

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