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必要なのは、現地で起きている事実を「平たく知ること」

 地震で被害を受けたのはイカ釣り漁船だけではない。他の魚種を狙う船の被災や、資材の損失も深刻だった。

 例えば、定置網。坂東参事は「新しく導入しなければならなくなった漁師もいます。そうなると、漁を再開できるのは早くても地震から1年後の冬になります。それまでの収入はありません。にもかかわらず、網の新調には億単位の資金が必要になります。政府の補助メニューはあっても、漁師の自己負担も多く、決して簡単に支払える額ではありません」と解説する。

「大漁」の碑(石川県漁協小木支所)

 そうでなくても経営環境が厳しかった漁師は、さらに追い詰められているのである。

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「だから、記者の皆さんにはいつも言うんです。地震の発生から時間が経つと、次第になにが再開されたなどという報道が増えていきます。イカ漁の再開も報じられました。ただ、その陰には船を失って収入がゼロになり、路頭に迷っている漁師もいます。そうした人のことを忘れてほしくないのです」。坂東参事は切々と語る。

 能登半島地震が起きてから4カ月が経つ。

 まだ、あの日のままのような場所もある。生計を断たれる瀬戸際の人もいる。

 希望はもちろん、なくてはならない。が、私達に必要なのは、安易な復興イメージの拡散や期待ではなく、現地で何が起きているか、事実を平たく知ることだろう。

写真=葉上太郎