イカキング。ご存じだろうか。
石川県能登町が設置した巨大なスルメイカのモニュメントだ。
建設には新型コロナウイルス感染症対策の地方創生臨時交付金が使われ、使途として疑問視する声が噴出した。これに対抗して町役場は経済効果が約6億円あったとする試算を示し、大きな話題になった。
イカキングを「復興のシンボルに」
だが、能登町は能登半島地震で被災し、イカキングも津波に浸水した。
今、「イカキングを復興のシンボルにしよう」という声がある。ただ、地元の住民の反応は鈍い。なぜなのか――。
「能登町といったら、イカキングじゃないですか。やっぱり見ておきたいと思って」
関西から来た自治体職員が2人、スマートホンでイカキングを撮影していた。
2人は能登半島地震の災害支援業務のために到着したばかりで、翌日から能登町役場で仕事を始めるのだという。
「その前に、ちょっとでいいから、どうしても見ておきたかったのです。あれだけのニュースになったので、同じ自治体の職員としては非常に興味がありました」と話す。
「あれだけのニュース」とは、どういうことなのか。経緯をおさらいしておきたい。
5億円以上の総事業費がかかった「イカの駅つくモール」
能登町はスルメイカの水揚げ地だ。町内の小木(おぎ)港は、北海道・函館港や、青森県・八戸港と並んで、「日本三大イカ釣り漁港」とされている。しかし、知名度が低かった。そこで、「イカの町」をPRしようと2020年6月、能登町が「のと九十九湾観光交流センター(愛称・イカの駅つくモール)」を建設した。
小木港は「小木」「本小木」「九十九湾」の三つの入江で構成される。「イカの駅」はこのうち九十九湾の最も奥まった場所に建てられた。
九十九湾は風光明媚だ。
湾口約200m、奥行き約1200m。リアス式で複雑な海岸線は約13kmに及ぶ。1927(昭和2)年には、東京日日新聞と大阪毎日新聞が主催した「日本百景」に選ばれた歴史もある。
「イカの駅つくモール」の建設には約5億2000万円の総事業費がかかった。
木造平屋建てで、床面積933平方m。実際の運営は指定管理者が行っており、物販コーナーや、レストラン、観光案内所があるほか、シーカヤック、サップ、スキューバダイビングができるよう整備もされた。「イカす丸」と名づけられた遊覧船もある。
この敷地内に2021年3月、「イカの駅つくモールを全国発信するシンボル」として町が追加建設したのがイカキングだった。
全長13m。幅は2~9mで、最も高いところで4mある。
本体表面はFRP(繊維強化プラスチック)製だが、内部は鉄骨造。重量約5tの構造物である。
人間が食べられたり、長い足で巻き付かれたりするように見える写真が撮れるよう設計されていて、SNSでの発信も狙いの一つだった。
だが、約2700万円の建設費のうち2500万円が新型コロナ対策の交付金だったことから、「無駄遣いだ」「使途としておかしい」とする批判が相次いだ。