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今季のベイスターズで激増 「盗塁」という作戦を考える

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/05

 4月のベイスターズは、何かと話題の中心にいた。

 開幕から2カード連続で負け越し、1勝4敗スタートとなった時には、「おいおい、Numberで特集なんかされて、球団もファンも浮かれちゃったんじゃないの?」と不安になりましたが、そんなことを一掃する破竹の8連勝。4月を終えて13勝11敗。首位広島に2.5ゲーム差の3位は好位置と言っていいだろう。神里、京山、東、飯塚と、若手が出てきては次々に活躍し、ついこの間まで、「今日の村田はホームラン打ったか? 内川は何本ヒット打ったか?(チームは負けている前提なので、勝敗は気にしない)」がスポーツニュースのチェックリストだったはずが、今では、「今日は誰がYahoo!のトップニュースになったか?(チームは勝っている前提で、若手の名前を親のような気分で探す)」をチェックし始めている。「S(セーブ)」の欄に「山﨑康」と表記されていることは、もはや日常となった(「井納」と記載されていた日には、思わず山﨑康の健康状態をググってしまうほど)。

 そんな好調ベイスターズの要因はいくつかあげられると思うが、今日は「盗塁」にフォーカスしてみる。今季、4月を終えたベイスターズの盗塁数は23。セ・リーグ1位。去年の年間盗塁数が39個だったことを考えると、4月が終わった時点で去年の6割近くの数値まで来ていることは、異常なペースと言える(去年が少なすぎるのもある)。ベイスターズの盗塁がなぜ増えたのかという理由に関しては、ラミレス監督の思うところがあったり、走れる選手の出塁率が高かったりと、様々あると思うが、今回は「盗塁」そのものに触れていこう。

「盗塁」という作戦の奥深さ

 盗塁という行為がチームにもたらすメリットとは何か? 最近盛んになってきた「セイバーメトリクス」によると、盗塁という作戦は、成功率が70%以上でないと意味がない作戦である(『勝てる野球の統計学』などの著者・鳥越規央氏による)。なぜそうなのか興味のある方は、是非色々調べてみると良い。ここで書くにはちょっとどころじゃなく長くなってしまうので、割愛させていただく理由がよくわかるだろう。そう考えると、イチロー選手は日米通算700盗塁を超えて成功率約82%、伝説のスピードスター赤星選手の生涯盗塁成功率81.2%はその盗塁数以上に本当は評価されていい数字である。(2014年、梶谷が盗塁王を獲った時の成功率は83%。昨年2017年は87.5%! 失敗わずか3! これも、驚異的な数字だ!)

2014年に39盗塁で盗塁王のタイトルを獲得した梶谷隆幸

 さて、盗塁に関するウンチクは置いておいて、盗塁の醍醐味を是非共有したい。高校野球の試合を見ていると、盗塁のセーフとアウトは非常にハッキリしている。誰が見てもセーフか、誰が見てもアウトのどちらかで、多くは前者、「誰が見てもセーフ」が多い。ランナーのスピードの方が、バッテリーの盗塁阻止力よりはるかに優っていることが多いからである。ランナーは、ピッチャーが投球モーションに入ったと同時にスタートを切り、キャッチャーがセカンドへボールを転送する前に二塁にたどりつく。塁間は27.432メートル。リードを3メートルとったとしたら、その距離は約24メートル。要は、ランナーは24メートル先に何秒で到達できるかの勝負である。ちなみに、前出の赤星選手はこの距離を3.26秒で走る。

 バッテリーは、共同作業で盗塁を阻止する。ピッチャーはクイックモーションでボールをリリースする。プロ野球の現場で求められるクイックモーションの基準は、最低1.25秒。これは、モーションを起こしてから、ボールがキャッチャーミットに入るまでの時間。キャッチャーはボールをセカンドに転送して盗塁を阻止する。求められるタイムは最低2秒。これは、キャッチャーがボールを捕球してから、セカンドベース上にいる選手がボールを捕球するまでの時間。ピッチャーがモーションを起こしてからボールがキャッチャーに到達し、キャッチャーがセカンドに転送し、セカンドがボールを捕球するまでのプロ野球で求められる最低の基準は、1.25秒+2秒で、3.25秒。つまり、バッテリーが「普通」にプレーすれば、球界最速クラスの赤星選手でもアウトになる。

 ではなぜ、イチロー選手や赤星選手は高い盗塁成功率を記録できるのか? それを解明するには、まずピッチャーのクイックモーションタイムが1.25秒という点から分解していく。

 ストレートの球速が140キロだとすると、ボールはバッテリー間の18.44メートルを約0.47秒で移動する(実際はリリースポイントがもっと前なため、正確にはもう少し速い)。仮に110キロのカーブを投じたとすると、約0.6秒。その差0.13秒。たった0.13秒に思えるかもしれないが、赤星選手はこの0.13秒の間に95センチ進む。想像していただきたいのだが、クロスプレーで95センチの差があったら、それこそ「誰が見てもセーフ」である。同じクイックモーションでも、球種がストレートかカーブかで、盗塁の結果は全く別のものになる。

 比較的球速の速いフォークボールでも、キャッチャーの捕球が難しいために送球に時間がかかること、多くはワンバウンドするボールとなるため、これまた送球に時間がかかる(または、送球すらできない)ことを考えると、変化球の時に盗塁をするだけで、成功率はかなり上がる。無論、クイックモーションがもともと遅いピッチャーでは、ストレートでも盗塁が容易になる。なぜなら、前述したとおり、0.13秒でランナーは95センチ進むからである。(ちなみに、大谷選手のクイックタイムは1秒を切る。非常に素早いモーションな上に、そこから160キロ近いボールを投げるため。キャッチャーが最低ラインの2秒のスローをしたとしても、合計で3秒。赤星選手をもってしても、ベースの1m91cm手前でアウトになる!)