高齢者の単身世帯が激増している。マンションにおける高齢者の単身世帯数については正確なデータが存在しないが、2013年度に実施された国土交通省の「マンション総合調査」によれば、東京都内のマンション世帯主のうち、70歳以上が世帯主である住戸が2割、50歳以上が7割を占める。こうした現状からは、今後多くのマンション住戸が相続の対象となってくることが容易に想像される。
かつては親が子に残す財産で最も価値の高いもののひとつが自宅だった。不動産は財産としての価値が高い。つまり、相続人が「住む」こともできれば、人に「貸す」こともできる。最後には「売る」ことで現金にも換えられるということで、相続人の間ではこの親の残した自宅の相続をめぐって醜いトラブル=「争続」問題が生じていた。
東京都内だけで60万戸近くの賃貸住宅が空き家に
ところが最近はやや状況が異なるようだ。都心居住が主流となる中、親の自宅を相続しても、自身で「住む」つもりはない。賃貸に出しても、築年が経過したマンションでは住宅設備は古く、部屋の内装も時代遅れでなかなか借手がつかない。かなりのお金をかけてリニューアルしても立地に劣るマンションになると満足な賃料で貸せるケースは少なくなっている。賃貸住宅の空き家は東京都内だけでもなんと59万8000戸も存在することがこの状況を物語っている。
親の残した自宅の不動産価値がそれほどでもないことに気付き始めた相続人たちはむしろ現金や株式を優先し、不動産を敬遠して相続人同士で押し付けあうというような場面も増えているという。
こうした状況で相続したマンション住戸。管理上でもやっかいな問題を引き起こしている。相続人がマンション住戸を相続したことを管理組合に連絡しないケースが増えているのだ。
親のマンション住戸を相続はしたものの、部屋内の片付けだけでも一苦労。住戸は傷みが激しく、賃貸するとしても相当額のリニューアル費用がかかる。ただでさえ欲しくもなかった住戸を無理やり相続させられた相続人は、その事実を告げずに放置、結果として管理費・修繕積立金が滞納となるのだ。
マンションを継ぐ気がさらさらない相続人
通常であれば管理組合は、相続人が確認できれば、当然にして相続人に対して管理費・修繕積立金の請求を行うことになる。ところが相続人としての届け出が行われず、どこに請求してよいのかわからなくなるケースが発生しているのだ。
相続人を見つけ出して、滞納分を請求できても、相続人が外国住まいであったり、相続人が複数存在すると各相続人間の共有財産ということでコミュニケーションが取れずになかなか思うように徴収できないケースも増えている。
首都圏郊外のあるマンション管理会社の社員は、最近の事情を次のように話す。
「最近は相続人の方をつきとめても、本人にマンションを継ごうという意識がさらさらありません。なかには『困っているなら差し押さえでもして売ってくださいよ』と言われる始末です」