「歌丸師匠、亡くなっちゃいましたね……」。7月2日夕方、予定されていたインタビューに現れた講談師・神田松之丞さんは、取材直前に入った落語家・桂歌丸さんの訃報に声を落としました。直接仰ぎ見た、大先輩の背中とは。思い出を語っていただきました。
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師匠が「俺を使え」と言う理由
——突然の訃報でした。
ええ、驚きました。ただ、僕のような者が、別格の存在である歌丸師匠を語るなんて大変おこがましいことなんです。ですが、今回は別のテーマで取材を受ける予定だったところに訃報が入ってきた。このタイミングだからこそ、ということでお許しいただければと思います。
——歌丸さんは松之丞さんが所属する「落語芸術協会」の会長でもありましたね。
ただでさえ業界の大先輩なのに、協会の会長でもありますからね。普通だったら、僕のような二ツ目にとっては仰ぎ見るだけの雲の上の人なんです。ところが、歌丸師匠は違って、こんな若手にも気軽に声をかける。しかも「俺を使え」って。
——「俺を使え」ですか。
一つは俺を会に呼んで客を集めろっていう優しさ。僕たち若手のユニットの会「大成金」にゲストで来ていただいてからは、注目度がそれまでと全く変わりました。もう一つは俺の名前を出して笑いを取ってもいいんだ、という優しさ。それで先日『ダウンタウンなう』に出演した時に、歌丸師匠について「死に待ちですよ」って冗談で悪態ついたんです。お言葉に甘えて師匠を使わせていただいたんですが、あの番組、オンエアが6月22日だったでしょう。病状がそこまでと知らないとは言いながら、後でなんとも言えない気持ちになりました。
ただ本当に、「歌丸」という名前はテレビから地方公演まで、知らない人はありませんでした。師匠もそれが分かっているから「俺を使え」と言ってくださったんでしょうが、それは紛れもなく『笑点』という番組で培った知名度あってのこと。協会の会長の大きな仕事は落語を普及することですから、その意味ではこれ以上の適役はいなかったと思います。