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毒針を持つ蜂や蟻にみずから刺されて「痛さ」を数値化してみたら

小野正人が『蜂と蟻に刺されてみた』(ジャスティン・O・シュミット 著)を読む

2018/07/25
『蜂と蟻に刺されてみた 「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ』(ジャスティン・O・シュミット 著/今西康子 訳)

 黄色と黒色のツートンカラーの本書のカバーを見た人は、何やら危険な雰囲気を感じてしまうのではないだろうか? それは「スズメバチ類」の警告色そのものである。著者は、「私たち人間は(中略)、ハチのように、刺される危険のある昆虫に対しても本能的な警戒心を持っている」と明言し、彼女(刺針をもっているのは全て雌性)たちの毒針は、天敵であるヒトを含む哺乳類をターゲットに進化したものであることを示唆する。

 本書の特徴に、著者が毒針をもつ80種以上の様々な蜂や蟻に自ら刺され、その「痛さ」を数値化(レベル1~4)し、付録にリストとして掲載している点が挙げられる。リストの最後を飾る中南米産の「ウォーリアーワスプ(アルマジロワスプ)」の痛さのレベルは最高のレベル4であるが、「拷問以外の何物でもない。火山の溶岩流の真っ只中に鎖でつながれているみたい。それにしてもなぜ私はこんな一覧を作り始めてしまったのだろう?」と後悔の念ともとれる一言を思わず漏らしている。「痛さ」を言葉ではなく数値で表すという科学者としての客観性の中に、著者の人間としての一面を感じとることができる。

 書き出しでは、知的好奇心溢れる魅力的な著者の生い立ちについても触れられるが、後半の無謀とも思える「痛みの数値化」への試みに違和感なくつながっていくのは、著者の対象に対峙するあまりに純粋な姿が読み手の脳裏に浮かんでくるからであろう。最終章「ミツバチと人間」では、「甘い蜂蜜」と「痛い毒針」という相反する要素を併せもつがゆえに、ミツバチは人間を惹きつけてやまないとし、その関係の深さと広さを例示している。その章では、防衛に刺針を使わず集団で形成する蜂球で天敵スズメバチを“熱殺”するニホンミツバチも紹介されている。

 翻訳が実に正確で大変な時間をかけて丁寧に作業が進められたことが窺える。本の体裁から怖いと手をすくめず、是非ともこの夏に読破して欲しい書籍である。

Justin O. Schmidt/1947年生まれ。サウスウェスタン・バイオロジカル・インスティテュート所属の生物学者。2015年、ハチ・アリ類に刺された時の痛みを数値化した「シュミット指数」でイグ・ノーベル賞を受賞。

おのまさと/1960年生まれ。玉川大学農学部教授。日本学術会議連携会員。社会性ハチ類を対象に基礎と応用の境界で研究を展開。

蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ

ジャスティン・O・シュミット(著),今西康子(翻訳)

白揚社
2018年6月7日 発売

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