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直木賞受賞・島本理生インタビュー「まだ見るか、ってくらい見てた“悪夢”のこと」

謎めいた心の動きをミステリーに

2018/07/23

――このたびは『ファーストラヴ』での直木賞受賞おめでとうございます。受賞記者会見で今の気持ちを訊かれて「ほっとしています」とおっしゃっていましたが、それくらい、プレッシャーと期待があったということなのかな、と。

島本 そうですね。今回は自分で読み返してみても、いい意味で緊張感を持って書けた小説だという実感があったので、その分これで決まってほしいなという気持ちがありました。

――これまでさまざまな作風の作品を発表し、過去、芥川賞に4回、直木賞に今回を含め2回ノミネートされています。2015年、『夏の裁断』が芥川賞の候補になった後で、ツイッターで「今後はエンタメ誌でがんばります」と宣言されていましたね。あえて宣言したことは、ご自身にとってもよかったですか。

島本 はい。やっぱりジャンルをひとつに絞ったことで、自分の中ですごくシンプルになったところがあります。

ミステリーは書けないと思っていたが……

――『ファーストラヴ』は、スリリングなミステリとして一気に読ませる内容です。女子大生、聖山環菜が父親を刺殺したとして逮捕され、この事件のノンフィクションを書くことになった臨床心理士の真壁由紀が、環菜や周囲の人々に話を聞いていく。環菜の複雑な心理が浮かび上がる展開ですが、この話の出発点はどこにあったのでしょうか。

島本 10代の頃からいろんな臨床心理の本を読んでいましたし、多重人格ものの小説が流行った時期があったりして、自分でもそういうものを書いてみたいと思っていました。実は、ひとつの事件が起きて臨床心理士が面会を通して相手の心理を探っていく、という構想に関しては『夏の裁断』を書き上げる少し前からありました。なので『夏の裁断』が芥川賞候補になった時に、このまま芥川賞を獲ったらこの構想はお蔵入りするかもしれないな、というのが頭の隅にありました。

――確かに本作はエンタメ性の高い内容ですものね。殺人の容疑者である環菜自身が「動機が分からない」と言う時点でもう、ミステリ的な興味をそそります。話が二転三転していくタイミングも絶妙でしたし、裁判のシーンは迫力があるし、真相には驚きがありました。

島本 昔からミステリを読むのは好きだったんですが、自分に密室ものは書けないなと思っていて(笑)。でもたとえば、恋愛だって、ある種ものすごく謎めいた心の動きがありますよね。そういう謎を追っていく話なら自分でも書けるんじゃないかなと思いました。

 でも、それほど事前にかっちりとプロットを決めて書いたわけではなくて、結構勘で書いていますね。