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瀧井 朝世
2015/12/19

現代の日本社会を凝縮した最新作『呪文』が話題に。カリスマが作られていく、その先にある「恐怖」とは?――星野智幸(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

genre : エンタメ, 読書

星野智幸(ほしのともゆき)

星野智幸

1997年に『最後の吐息』で文藝賞を受賞して小説家デビュー。2000年に『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞を受賞。2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞を受賞。2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。2015年『夜は終わらない』で読売文学賞を受賞。最新作の『呪文』は、各界から大きな反響を呼んでいる。

――新作『呪文』(2015年河出書房新社刊)がたいへん話題になっています。商店街の人間模様のなかに今の日本の姿が凝縮されていて、現実味があると同時にとても怖い内容ですよね。

呪文

星野 智幸(著)

河出書房新社
2015年9月11日 発売

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星野 今までの中でも一番、ダイレクトに強い反応を感じますね。「今現実に起きていることと地続きになっていて、読み終わって現実を見るとまだ怖い」というような反応をたくさんいただいています。

――これは寂れた商店街にカリスマ的なリーダーが現れる、という内容です。彼、図領は街の改革に乗り出しますが、変化についていけない人たちは排斥され、結成された自警団「未来系」は暴走していく。現実の商店街の現状を見て感じたことが発端だったとうかがっています。

星野 そうですね。商店街が急速に寂れているということと、もうひとつはヘイトスピーチで社会が壊れていくと感じたことが始まりですね。その両方を合わせました。自分の目に映る現実をできるだけそのまま書こうと思って始めたものですから、読者もそう感じてくれるのは自然な成り行きかなと思います。

 商店街に関しては、地方だけでなく都内でも地域によっては寂れていっているのが印象に残っていて。ヘイトスピーチはもう、人種や民族に関することだけでなく、いろんなところで差別的な罵倒やバッシングがあふれていますよね。その様を見て、なんだか人の心も壊れているし、社会も壊れているな、と感じたんです。壊れ始めているんじゃなくて、ちょっと修理が不可能なぐらい深く壊れている、と思うのがこの3年くらいです。震災の1年後くらいからですよね。

 震災の後はみんな「頑張ろう」だとか「こんなひどい目に遭ったんだから社会を立て直そう」と前向きだったと思うんです。僕は2012年の春に韓国に行って3か月ほど滞在したんですが、日本に戻ってきたら、生活保護者が大バッシングされていた。僕が行く前には、北海道で生活保護を受給できなくて餓死した人がいて大問題になっていたのに、帰ってきたら生活保護受給者がバッシングされているという、めまいのするような展開になっていた。以降はもう、底なしのように次々とターゲットを見つけてはバッシングをしていくのが普通になってきた感があるわけです。

 ヘイトスピーチはその前からありましたが、生活保護受給者バッシングをやったのが政治家でしたから、そこからゴーサインが出たということで異常な盛り上がりをみせていく。それが2012年でした。そしてその年末に政権が交代するわけです。

――カリスマ的リーダーというのは、これまでにも書かれていますよね。

星野 しばらくは僕の一大テーマでしたね。今までの場合には、カリスマが作られていくまでを書いていたんですが、今回はその先を書きました。実行力があって魅力的な言動をしている人にわっと支持が集まって弾みがついてしまった後、そのカリスマをみんなが追い越していく。カリスマが何かを言ったり行動したりしなくても、熱狂した一般の人々が先を争うようにどんどん突進していってしまう状況に焦点を当てて描いたと言えますね。

――ヒトラーがいて、ヒトラーの意志とは関係ないところで親衛隊が暴走していくような感じですよね。悪の権化が一人いるのではなく、集団化していくところが恐ろしい。

星野 一人が実権を握って独裁している社会ももちろん嫌ですけれども、ある意味で分かりやすいし、その人を倒せば世の中が変わるかもしれないと思えますよね。でも、実際にはそのカリスマが全権を握っているのではなく、それに乗っかった一般の人たちが、誰が指揮をとっているのか分からないような状態で一斉に同じ方向に流れていってしまう。誰か特定の一人を止めても状況は変わらないし、全体がもうあまりにも大きすぎて、個々人の手には負えない状況になってしまう。そのほうがより怖いですよね。

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