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2014年総選挙で落選している杉田水脈

安田 ところで、インターネット上で扇動されている情報を無根拠に正しいと思い込んでしまう「ネットde真実」みたいな話って、アメリカのトランプ政権を支持したオルト・ライトみたいに、世界中のあちこちにあるとは思うんですよ。ただ、日本における最近の大きな現象というのは、政治家でそういう人が出ていること。その代表選手はやはり、「LGBTには生産性がない」という趣旨の発言が炎上して最近話題の、杉田水脈議員でしょう。『新潮45』8月号に寄稿した文中での発言です。

『新潮45』8月号で「LGBTには生産性がない」と主張した杉田水脈議員 ©AFLO

古谷 『愛国奴』と同時発売で、小学館から『女政治家の通信簿』という新書を刊行しています。これは女政治家28人に安倍昭恵さんを加えた29人を独断と偏見で評した本です。もちろん杉田さんも登場します。

安田 同書は水木しげるの『妖怪図鑑』みたいな本でした。特に「このハゲー!」発言の秘書パワハラ問題があった豊田真由子元議員の記述は、実に『妖怪図鑑』っぽい(笑)。油すましとかぬらりひょんとか、不思議な存在に出くわした感を感じさせます。そういう意味では杉田さんも相当に大物です。

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古谷 実は僕、杉田さんをここ5、6年くらいウォッチしてるんです。彼女はもともと、18年間兵庫県西宮市市役所に勤務していたのが、橋下徹さんのブームに乗って維新から公認されて出馬・当選。その後の維新分裂で次世代の党に入り、2014年の総選挙でいったん落選しています。そのあと彼女は、2017年の衆院選までずっとネットで活動してきた。

安田 倉山満・千葉麗子・杉田水脈が鼎談して表紙がはすみとしこ、というある意味でのオールスター的な顔ぶれで、左翼を糾弾する書籍も出しています。

古谷 彼女がネットで知名度を獲得したのは、むしろ2014年に落選してからです。アメリカでも活動するネット右翼系の市民団体「なでしこアクション」といっしょに、慰安婦問題で日本はそんなにひどいことはしていない、反日左翼と朝鮮人のウソだ、という主張をずっとやっていた。で、極右界隈の論壇誌に寄稿していたわけです。

渋谷区の同性パートナーシップ条例にも反対

安田 なでしこアクションやチャンネル桜に影響されて動く人たち、ヤバいんですけどね。北米で中韓のロビイストや現地議員が慰安婦像の設置や南京大虐殺記念日を制定させようとするのに対して、「南京はでっち上げ」「慰安婦は売春婦」みたいな極端な主張をして、ネット右翼たちに同一文面での大量の抗議メールの送信も呼びかける。これに現地の中道の議員たちまでドン引きすることで、中韓ロビイストの主張の誇張された部分まで、逆に「事実」として浸透しやすくなっている。

古谷 だから僕は、杉田さんはこのまま議員として再浮上せず、「保守系」文化人や活動家として終わると思っていたんです。それが、2017年の衆院選で比例中国ブロックで、実質名簿1位の厚遇で自民党に公認された(笑)。そこから杉田さんの暴走が始まる。

安田 ネット右翼界隈は反フェミニズムは多いですが、明確な反LGBTというのは、本来は強くない主張ですよね。私はちょっと唐突な感じがありました。

古谷 自民党の議員になる前から、杉田さんは元々そういう志向なんです。2015年の渋谷区の同性パートナーシップ条例についても、認めるべきじゃないという主張でした。LGBTは公に認めちゃいけない。LGBTは生産性がない。LGBTは日本の伝統にそぐわない存在であるとずっと言ってきたわけです。

安田 日本の伝統にもそぐわないんですか。森蘭丸とか高坂昌信とか、どうするの?

古谷 彼らの言う「伝統」って、近代以降なんです。厳密に言えば総力戦時代(1938年~45年)くらいの道徳観を「古来からの伝統」と位置づけているんです。だから国家社会主義的で排他的で、教育勅語に異様に拘るわけです。「産めよ増やせよ」の当時のスローガンを伝統だと勝手に思い込んでいるんです。そもそも、日本近世とか中世に関する知識とか無いですから。さておき、とにかく杉田さんはもともとメチャクチャなことを言っているわけなのですが、自民党は彼女を公認して国会に送り出してしまったわけです。