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豊橋の“若き工学者”たちは、なぜ「役立たずロボット」を作り続けるのか?

「弱いロボット」研究者・岡田美智男教授インタビュー #1

note

バネをあえて入れているのには理由がある

――今まで紹介いただいたロボットはみんなヨロヨロ、ヨタヨタしていて、動きが不安というか、危なっかしいですよね。これはどうやって設計してるんですか?

柄戸 中にバネを入れてるんです。でも、普通ロボットを作るときにバネって使わないんですよ。まさに動きが不安定になって、ぎこちなくなるし、カメラの映像なんかもブレるから。それを、僕たちはあえて入れているんです。

――昔ばなしを語る、ゴミを拾い集める、ティッシュを配る、全部そのロボットの目的はあるわけですけど、あえて「目的が果たせないかもしれない」不安定要素を動きに入れていると。

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岡田 それはさっき言った通り「助けたい、関与したい」って思わせる動きなんです。ゴミ箱ロボットだってヨロヨロしながら「ゴミを入れて」って感じで近づいて来たでしょう。こっちは「ほっとけないな」って、ゴミを放り込んであげる。私たちはこれを「弱さの力」って呼んでいるんですけど。

自分ではゴミを拾えないゴミ箱ロボット「Sociable Trash Box」
ついゴミを捨ててあげてしまいました

人と機械のより良い関係って何だろう

――キーワードですね、弱さの力。そこでお伺いしたいのは、なぜこうした「しっかりしていないロボット」、もっというと一見「役に立たない」ロボットを作り続けているのか、ということなんです。

岡田 端的にいうと「ロボットを作ることが目的じゃなくて、むしろコミュニケーション研究の道具としてロボットを作っている」という感覚なんです。ここICD-LABの正式名称は「インタラクション&コミュニケーションデザインラボ」。つまり、人と機械のより良い関係って何だろうってことを研究しています。

――人と機械の関係というと、たとえば。

岡田 最近だとスマートスピーカー。昔からあるものだと自動販売機で「アリガトウゴザイマシタ」っていうやつがあるでしょう。あれ、言葉では「ありがとう」って言っているけど、あんまり気持ち伝わってこないですよね(笑)。まさに機械的、一本調子で。

岡田美智男教授

――ATMで「お取り忘れにご注意ください!」って高速で言われるのも、ちょっとイラっとしますよね。

岡田 機械だから心があるわけないじゃないかって思えば、それはその通りなんですけど、これだけ「しゃべる」情報機器、情報家電が増えた時代ですから、人とモノのコミュニケーションデザインは社会の課題なんです。では、どういう関係が人をイラっとさせるのかというと、大きな原因として「一方的」っていうのがある。一方的っていうのは、こっちに主導権がないということ。機械が優位に立っちゃってるってことですね。

その完璧さって、どうですか? 双方向ですか?

――その点、スマートスピーカーは一方的から「双方向」に関係が変わった機械ではありますよね。まさにインタラクティブな関係性に。

岡田 関係性のベクトルは変わりましたけど、それだけではいいコミュニケーションとは言えないと思うんです。スマートスピーカーは便利で、人間の言うことをよく聞いて、指示通りの仕事を完璧にこなしてくれるでしょう。何か質問すれば、とても正確な、過不足ない情報をこっちに提示してくれる。カーナビもそうですよね。しかしその完璧さって、どうですか? 双方向のコミュニケーションになっていると思います?

「Pelat」

――なるほど……。完璧すぎて、こっちは何も言えないっていうか、「わかりましたー」って感じで終わっちゃいますね、話が。

岡田 正確な回答、明快な指示。道具の役目はしっかり果たしています。だけど、完璧さというのも「一方的」なんですよ。