『どもる体』(伊藤亜紗 著)――著者は語る

『どもる体』(伊藤亜紗 著)

 意図した通りに言葉が出ない「吃音(どもり)」。成人の百人に一人が持つメジャーな障害で、女優のマリリン・モンローや政治家の田中角栄も吃音の持ち主だった。今作では、この「吃音」について、原因探しや治療という目的ではなく、身体論の観点からときほぐしていく。

 著者の伊藤亜紗さんの専門は美学だ。『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)でも、視覚障害者の世界のとらえ方を描いた伊藤さんだが、なぜ身体を題材に選んできたのだろうか。

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「“美学”とは、哲学の兄弟のような学問ですが、哲学とは違って、芸術や感性など言語化しにくいものをあえて言語を使って分析する学問です。身体に関心を持つのは、それが究極の問いに思えるから。人は誰しも、性別や顔立ち、能力など、生まれ持った身体の条件と、一生付き合わなくてはなりません。このままならなさを考えるうえで、吃音が有効な手掛かりになると考えました。なぜなら吃音というのは、しゃべるという日常的な行為のなかで、体のコントロールがはずれる現象だからです」

伊藤亜紗さん

 自身も吃音である伊藤さんは、吃音障害の当事者のさまざまな「内なるドラマ」を知るため、年齢や職業、症状の度合いの異なる人々にインタビューを行った。

「取材では、インタビューが始まる前の雑談とインタビューの最中で吃音の出方が異なるなど、あらためて吃音の奥深さを感じました。印象的だったのは、ある吃音の方が書かれていた、『吃音というのは、言葉じゃなく肉体が伝わってしまったという状態』という表現でした。私たちが言葉を伝えようと話すときに、吃音というエラーが生じると、“私”のコントロールが及ばなくなり、“体”そのものがあらわになってしまうのです」

 社会性を重んじる場では、吃音を持つ人はもどかしさを感じることが多いだろう。しかし、吃音の謎が示すのは、人間は誰しも、「自分のもののようで自分のものではない」体と付き合いながら生きている、という事実だ。

「吃音や視覚障害に限らず、新しい技術や言語、振る舞い方などを身につけるとき、人は試行錯誤を繰り返し、体を変質させていきます。常にそばにいる“新たな私”と出会うことのおもしろさが伝われば嬉しいです」

どもる体

伊藤 亜紗(著)

医学書院
2018年5月28日 発売

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