昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

失恋したゲイの僕が、それでも「モー娘。」を応援する理由

類稀なる爆発性と、オトコ受けから距離のある歌詞

2018/09/29

 最近失恋した。それはもう猛烈な失恋をした。

 どう猛烈かというと、29歳にもなって2年近くその人だけを思って片思いし、あっさり振られてしまったのだ。振られたのは夜中まで飲んだ未明も未明で、闇に紛れて消えたくなるほど気が滅入ったが、なんとか「分かったよ」とクールに伝えて帰ってきた。

©iStock

 ゲイの人々の間には「ノンケっぽい(ゲイではない男性っぽい)」という代表的な褒め言葉がある。これは「あなたって自然な感じで男性性(オトコ)を携えていらっしゃるんですね」という意味で、それだけ皆“オトコ”への憧憬と渇きがある世界なのだろう。僕も恋の終わりくらい、良い男として“オトコ”らしく締めたかった。

 だけどそれも無駄だった。帰り道でどうしても気になってしまうのはパジャマ姿でコンビニで立ち読みする男女のささやきや、夜の公園で青く光るブランコ、小さく寒そうにしている月で、聴きたくなるのは断然「aiko」。失恋した僕の中で泣いてるのは“オトコ”というより完全に“オンナ”だった(ゲイの人は皆そんな感覚、というわけでは全くないが)。

 ちなみに聴いていたのは「三国駅」だ。aikoの出身大学の最寄り駅であり、実は僕の地元でもある。僕とaikoは同じ水を飲んで育ったわけだ。もしかしたら気付いてないだけで僕はaikoなのかもしれない。ていうかそうだと思う。寝てる間に曲作ってんのかもしれない。

 そういうわけでメンタルどしゃぶりで家についた僕は、なんとか生命維持をせねばと真っ暗な部屋でぼんやりテレビをみていた。録画欄には予約した記憶さえない番組が並んでいて、やれ温泉特集だの、花火大会がありますだの、独り身が爆死しかねないものばかりである。

 リモコンの「次」ボタンをガシガシ押しながらやっと見つけたのは音楽番組だった。これなら何も感じず見られそう。そんな気楽な気持ちで選んだ番組だったが、僕はそこで運命の出会いを果たした。『モーニング娘。’18』と出会ったのだ。

モーニング娘。’18「もっと私だけ、愛に保証つけて」
僕「これじゃん…」

 彼女たちは時の新曲『Are you happy?』を披露するところだった。やたらめったら仰々しいライトを浴び、しずかに始まりを待つ彼女たちの表情は真剣そのもの。全員なんだか分からないが、「あたしたち、マジですからね……!?」とでも言いたげな顔をしていた。思わず「いや、知りませんけど……」と言いたくなる。しかしそのなりふり構ってない少女たちの勢いにリーダーシップともとれる覇気を感じて、急激に期待しはじめる自分がいた。

 

 曲はいきなりセンターをつとめる牧野真莉愛ちゃんが「Are you happy?」とキメ顔で言い放つところから始まった。ズー! ズッ! ズッ! ズーズッ! 心臓に響くようなビート音が鳴り始め、皆が一斉に踊り始める。

 娘たちは頭をガンガン振り、手なんてもうブン回しである。僕はみるみるその強烈な世界観に飲みこまれていった。佐藤優樹ちゃんがつぶやき始める、「もっと私だけ……」。更には他のメンバーも手をゆらゆらと振りながら加勢していく。「もっと私だけ……もっと私だけ……」。最後は全員が一列になり前方を指差して3度も叫んだ。

「愛に保証つけて!!!」

 真っ暗な部屋で僕は思った、「これじゃん……」。ステージが終わった後はひたすらYouTubeでモーニング娘。の過去動画を漁る自分がいて、そして僕は瞬く間に彼女たちの虜になっていた。