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日本ハム・アルシアに言いたくても言えなかった言葉

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/22

 出会った頃のあなたは、危険な香りがいっぱいでした。約束は守らない、髪型は派手、腕にはタトゥー、胸元のボタンはいつも外れてる、ものを壊す。あなたの良さを理解するのには時間がかかりました。だからもう少し見ていたかったのに……私たちはもう会えないかもしれない。

約束の日に訪れなかった男

 ベネズエラ出身・前ダイヤモンドバックス、メジャー通算44発・左の長距離砲を獲得へ。そのニュースが飛び込んできたのは12月のこと。大谷選手の穴を埋める存在として私たちは大いに期待しました。183センチ、102キロ、26歳の若さ、オズワルド・アルシア、名前も強そう。契約合意の時は北海道に本人からこんなコメントが届きました。

「持ち味である長打力を生かし大事な場面でしっかりとした働きができるよう、まずは春季キャンプに向け準備を進めます」

 春季キャンプ、ファイターズのそれはアメリカのアリゾナ州でスタートします。今年で3年目でしたが、聞けば、新しくメンバーになる外国人の選手にとって、まずはアメリカで始めるのはストレスが少なく、チームに溶け込みやすくもなるとのこと。今年の新外国人はアルシア選手含めて4人、その中には同じくスペイン語を話すロドリゲス投手もいてしかも同年齢、きっといいムードでファイターズの一員になってくれるだろう、そんな風に思っていました。

 しかし。約束の2月1日、その場所にアルシア選手は来ませんでした。ビザの取得とパスポートの更新に思ったより時間がかかっているという情報が。いつ来るか、いつ来るか、とマスコミも待ちましたが結局アリゾナには間に合わず、やって来たのはもうチームは沖縄に移動していた2月21日。キャンプ自体へもぎりぎりの滑り込みセーフでした。合流できなかった間は母国で毎日練習していたんだと入団会見で話し、その後、チームと共に札幌へ。

危険な香りがいっぱいだったアルシア

「練習始まってますよ??」

 あれは札幌ドームで台湾のLamigoモンキーズとの国際交流試合が行われた日。私は別の選手への取材があり、練習前から札幌ドームのベンチでスタンバイしていました。そこに白いジャージ姿の見慣れない大きな人が現れました。ベンチにどかっと座ってずっと誰かとテレビ電話。声がめちゃめちゃ大きい、でも何を言ってるのか全然わからない、あ、外国の人……スペイン語か、え? もしかして……そう、それが私がアルシア選手を見た最初でした。

 彼はその後、選手が次々とグラウンドに出てアップを始めているのも全く気にせずにずっとずっとずーーーっとベンチでスマホの向こうの誰かと話し続けていました。スペイン語が話せないのがもどかしかった。「練習始まってますよ??」言いたくて言いたくて仕方なかった。

 アンダーシャツは着ません。ユニフォームの胸元はいつもボタンを外しています。2つ?? いや、3つ?? もっと?? 帽子を取ればモヒカンとも違う……真ん中をふさふさっと伸ばし金髪っぽく染め上げた独特のヘアースタイル。後で聞いたところによると、信頼している専属のバーバーを定期的に自腹で日本に呼んで整えてもらっていたとか。そしてアンダーシャツを着ないのでよく見えるタトゥー。この時代なので別に驚きはしないですが、いままでファイターズにはいないタイプだったので子供たちは受け入れるだろうかと心配しました。

 いつの時代も子供は外国人選手が大好きです。余計な心配でした。子供たちは現代のコ。私、昔のコ。タトゥーを珍しいものとも怖いものとも思わないし、中にはディズニー映画「モアナと伝説の海」に出てくる「マウイ」みたいでかっこいい! と私に言った子もいました。マウイは全身タトゥー。