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連載この鉄道がすごい

高野山へ向かう南海電鉄「天空」は、なぜ「ここだけの体験」を提供できるのか

電車版「劇的ビフォーアフター」。コンセプトは「俗世間から精神世界へ」

2018/10/28

genre : ライフ, , グルメ

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 なんということでしょう。どこかギスギスしていた通勤電車が、木の温もり、やすらぎの和モダンな空間へ大変身しているではありませんか。

来年で運行開始から10周年を向かえる「天空」

高野山観光の新名物もすっかり定着した

 2009年に高野線の橋本~極楽橋間で観光列車「天空」が走り始めた。険しい山岳区間ならではの、自然と眺望をゆっくり楽しむ列車だ。来年は運行開始10周年を迎え、高野山観光の新名物もすっかり定着した感がある。高野山へ行く時は特急「こうや」が定番ルートだったけれど、快速急行で橋本まで行き「天空」に乗り継ぐという楽しみが増えた。

 ちなみに大人運賃で比較すると、難波~極楽橋間を特急「こうや」に乗った場合は運賃が870円、特急料金が780円。合計で1,650円。難波~橋本間を追加料金不要の快速急行に乗り、橋本~極楽橋間を「天空」に乗った場合は、運賃が870円、天空の指定席料金が510円。合計で1,380円。天空のほうがちょっと安い。しかし、差額以上の価値がある。

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谷に沿って進んでゆく

「天空」は平日に2往復、休日に3往復の運行だ。平日の運行日は月・火・金曜。ただし12月から2月までは休日のみの運行になる。難波~橋本間の快速急行・急行に接続するダイヤだ。高野山への行きと帰りで列車を変えて、乗り比べても楽しい。

木の温もりを感じる和モダンな空間

「天空」の価値をいくつか挙げよう。まずは車体の美しさ。高野山の森林をイメージした緑色と、高野山の根本大塔を連想させる朱色の帯を配した。ほかの南海電車とは一線を画す特別感がある。ただし、通勤仕様の電車を改造した車両だから、外観は塗装を変更しただけに見える。しかし車内に入れば木の温もりを感じる和モダンな空間だ。

車内のあちこちに木目が配置されている

 座席の種類も多い。山岳区間は傾斜地に沿って走るため、西側の景色が開けている一方で、東側は斜面に塞がれがちだ。そこで、西側の窓を拡大し、窓に面したカウンター席を配置している。東側の座席も西側に向く。東側の景色は見えなくても、座面を高くして西側の景色を見えるように配慮した。空席に座ってみたら、座面が高いため谷を見下ろす良い眺望になる。片側の車窓に絞った大胆な座席配置が成功している。

西側の窓の外にはパノラマが広がる。霧がかかった景色も味わい深い

 極楽橋側の運転室の後ろは2人掛けシートを配置。前方、あるいは後方の眺望を眺めやすい。連結面は4人掛け席を配置してグループ旅に最適。橋本側の車両の、もともと乗降扉があった場所は風が吹き抜ける展望デッキになった。ガラスを通さずに景色と森の香りを楽しめる。この展望デッキと運転室の間にガラス壁で仕切られた4人掛け席がふたつ。極楽橋側の乗降扉のうち1カ所は一部畳敷き、テーブルを設置したイベントスペースになっている。