蒸気機関車が懐かしいなんて、アンタいったい幾つだい? いまどきの蒸気機関車は、郷愁だけで人気があるわけじゃないんだよ。おもしろいんだよ。何がおもしろいって? そりゃあ、全部「人が動かす機械」だからさ。鉄の部品の組み合わせと、石炭と水。あとは運転士と投炭係の職人技。それだけ。コンピューターなんか使わなくたって、これだけ大きな、約66トンの鉄の塊が走るんだ。どうだい。すごいだろ……。

JR西日本から譲り受けた転車台

 転車台の上でゆっくり回りながら、老機関車「C11 207」が私に語りかけてきた……ような気がした。機械が話すわけがない。いや、最近の家電は音声でいろいろ教えてくれて饒舌だけど、C11にコンピューターは搭載されていない。いま本人が私にそう語ったではないか。

 だけど人間は不思議な感覚を持っていて、優れた道具の意思を感じ取れる。特に乗りものは、蒸気機関車だけではなく、船も、飛行機も、クルマも。人々が愛着を感じれば語りかけてくる。だから私も言葉を返すのだ。

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「爺さん、頑張れよ」と。

東武鉄道が鉄道技術の継承に本気で取り組むとわかった

デビュー直後のSL大樹

 東武鉄道が2017年8月10日から蒸気機関車の運行を始めた。奇しくも2年前の同じ日、2015年8月10日に報道発表されたときは多くの人々が驚き、話題になった。それから2年。東武鉄道は入念な準備を続けた。

 線路設備としてJR西日本から転車台を譲り受け、乗務員はJR北海道、秩父鉄道、大井川鐵道、真岡鐵道という、SL運行の先輩会社で指導を受けた。客車はJR四国から6両、車掌車はJR貨物とJR西日本から1両ずつ。運行支援用のディーゼル機関車はJR東日本から譲受した。

 なにより、JR東日本、秩父鉄道、大井川鐵道、真岡鐵道の協力が力強く、感動させる。この4社はSL復活運行の先輩であると同時に、SL観光集客ではライバルだ。さらに東武鉄道という、大手私鉄のライバルが増えたら、自社のSL列車のお客さんが減るかもしれない。でも協力した。東武鉄道が鉄道技術の継承に本気で取り組むとわかったからだ。

連日、乗客でにぎわっているSL大樹の車内

 いや、ちょっと意地悪なことを書くと、東武鉄道は日光・鬼怒川観光のテコ入れをしたかった。近年、首都圏から週末に宿泊できる観光地の競争が激しくなっているからだ。

 西武鉄道は秩父鉄道と組んで、SLを西武秩父駅から発車させている。副都心線に「S-TRAIN」を走らせて、東急電鉄沿線のお客さんを秩父へ取り込もうとしている。新型特急の導入も発表された。

 小田急電鉄は箱根観光に力を入れ、新型ロマンスカーの製造を発表し、箱根登山鉄道にも新型車を投入した。東急電鉄とJR東日本は、伊豆方面に観光列車を1本ずつ投入した。

SL大樹の出発駅にして、日光・鬼怒川地域の玄関口でもある下今市駅