昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載この鉄道がすごい

2017/12/24

合い言葉はきっと「C11 207を救え」

 東武鉄道が東京スカイツリーの投資に集中している間に、日光・鬼怒川の相対的な価値が下がってきたかもしれない。そこで、スカイツリーの成功を追い風に、日光・鬼怒川地域のリニューアルを目論んだ。外国の大手ホテルと提携するとか、このSLとか……。

 そんな背景が透けて見えても、鉄道会社の連携はガッチリと行われた。それはもう、鉄道への愛である。合い言葉はきっと「C11 207を救え」だ。

沿線からの歓声にこたえ、運転席から手を振る

 蒸気機関車「C11形」の207号機は、真珠湾攻撃の直後、1941年12月26日生まれの76歳。山口県下松市の工場で作られ、北海道にわたって30年以上も働いた。しかし、エネルギー効率の低い蒸気機関車は全国から淘汰されていく。北海道で活躍した鉄の馬は、1974年にサラブレッドの町、静内町(現在の新ひだか町)の公園で展示された。

 このまま余生を過ごすと思っていたけれど、2000年に転機が訪れた。1999年に放送されたNHKの朝ドラ『すずらん』で、北海道を舞台とした鉄道員の家族が描かれると、北海道でSL復活を望む声が大きくなった。そこで「C11 207」に白羽の矢が立ち、半年間の修復作業を経て復活した。それから14年間、北海道のSL観光列車として活躍した。

蒸気機関車の心臓部に石炭を投げ込む

 しかし再度のピンチが訪れる。JR北海道が安全面の投資に集中するため「C11 207」の廃車を決める。新型の安全装置(ATS)の取り付け改造費を捻出できないからだ。

 そのピンチを救った会社が東武鉄道だ。JR北海道から「C11 207」を借り受けて、東武鉄道で整備して運行する。この機関車を元気に走らせるために、ライバル意識を超えた協力関係が築かれた。

車掌室に最新の安全装置が搭載された

機関車の後ろに車掌車が連結されている

 老機関車はコンピューターを使わないと語った気がしたけれど、実は最新の安全装置が搭載された。ただし、その装置の本体は機関車の後ろに連結した車掌車に積まれていて、蒸気機関車の運転室には小さな車内警報装置が取り付けられている。

 76歳の機関車は老体だし、気難しいところがある。ごくたまに、朝の点検で機嫌が悪いと走らない。

 そんなときは赤いディーゼル機関車、DE10形が先頭に立つ。蒸気機関車が目当てのお客さんはガッカリすると思うけれど、実はこのDE10も希少な存在だ。客車も車掌車も国鉄時代に活躍した貴重品。まるでここは国鉄時代の鉄道テーマパークだ。

DE10形ディーゼル機関車

 東武鉄道の「SL大樹」は、主に週末と休日の運行だ。下今市駅と鬼怒川温泉駅を結ぶ、約36分の小さな列車旅。運賃は大人250円、プラス指定席料金が750円。

 鬼怒川温泉に出かけるなら、1000円ポッキリで楽しめる国鉄の旅なんてどうだい。

 老機関車が、また、私に語りかけた……気がした。

下今市-鬼怒川温泉間を約36分で駆け抜ける

写真=杉山秀樹/文藝春秋

この記事の写真(9枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー