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「絵画は、周囲のものに美を見出す力を与えてくれる」米国紳士が残した言葉

アートな土曜日

2018/11/10

 東京駅のすぐそばで、赤煉瓦の重厚な造りの佇まいを見せるのが三菱一号館美術館。内観も、入り組んだ小部屋がいくつも並んで瀟洒な雰囲気。ここで、館にまこと似つかわしい展示が展開されている。「フィリップス・コレクション展」だ。

 

米国紳士、ヨーロッパ近代絵画のコレクションを決意

 フィリップス・コレクションとは、米国ワシントンDCにある、私邸を改装した美術館のこと。1918年に創設され、21年から一般公開が始まったというから歴史は長い。

 館名にある通り、地元の名士ダンカン・フィリップスなる人物が築いたコレクションが展示されており、コレクションの充実度と趣味のよさは傑出している。その一端がいま東京に運ばれて、展観できるようになっているわけだ。

 

 19世紀末に生を享けたダンカン・フィリップスは、イエール大学在学中にパリを旅行し、印象派絵画に心酔する。帰国後もアートへの関心は衰えず、26歳で初めて絵画を購入すると、そのまま自身のコレクション形成に力を注ぐようになった。

 私邸を美術館にすると決意した1918年には、苦心の末に印象派の大家モネの作品を購入。一般公開を始めた1920年代には精力的にコレクションの充実をはかり、クールベやコロー、ゴーガンらヨーロッパ近代絵画を中心とするラインアップが築かれていった。

 

 フィリップスは並行して、同時代のアートにも目を向けた。1910年代からキュビズムと呼ばれる潮流を展開したピカソやブラック。スーティンらパリに集った若きアーティストの一群「エコール・ド・パリ」の面々。独自の道を進み新しい20世紀アートを切り拓きつつあったカンディンスキーにマティス。

 第二次世界大戦後も彫刻のヘンリー・ムーア、幾何学性と具象を融合させた画風のニコラ・ド・スタール、シンプルな形態の静物画を描いたジョルジョ・モランディ、モノや人の存在の不安を形象化したような作風を確立したアルベルト・ジャコメッティなどなど。コレクションが着々と積み重ねられていった。