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居酒屋で「TABUCHI 22」ユニフォームを着ていたら、阪神ファン(75歳)を泣かせてしまった話

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/08/30
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たまには負ける。でも球場に行ったときでなくても……

 阪神タイガースの“アレ”へのマジックが21となった8月27日の日曜日、東京ドームでの対読売デーゲームを観に行った。14時開始のこの試合、惜しくも逆転負けを喫し、試合終了とともにそそくさとドームを後にした。

 まあ8月は勝ちまくり、この日まで6連勝していたのだ。たまには負ける。でも、なにも私が球場に行った日でなくてもいいのになぁ……。そんな気持ちを和らげるために、水道橋駅までの「敗軍の行進」とは別れ、一緒に観戦した知人とともに駅を通り過ぎたところにある居酒屋へ入った。

 読売ファンは、まだ街に出てきていない。ヒーローインタビューまでじっくり聞いて、勝利の余韻に浸っているのだろう。開店直後のフロアは、あっという間に阪神ファンに占拠された。

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 知人とはコロナ前の2019年以来、4年ぶりの再会だった。ジョッキを傾けながら、現実として近づいてはいるものの、まだまだまったく安心できるような状態にはないアレについて語り合った。

 他のテーブルを見渡すと、多くの阪神ファンが贔屓の選手のユニフォームを着たままだ。かくいう私も、ここのところいつも着ている、背中に「TABUCHI 22」と書かれた水色のユニフォームを脱いでいない。

田淵幸一氏(右) ©時事通信社

私が「懐古ユニフォーム」を着る理由

 私がこのユニフォームを着る理由は、現役選手みんなが好きで一人に絞れないのと、自分が阪神を応援しはじめた頃の思い出を大事にしたいから。もちろん、人と変わったことをして、ちょっと目立ちたいというのもある。

 私にとっての田淵幸一は、野球を知った小学生時代のスターだ。周囲はみんな読売ファン。ホームラン王は毎年王貞治がかっさらうが、私はライバル田淵を応援した。

 少年野球のユニフォームも迷わず背番号22を選んだ。タイガースの背番号22を模したパジャマやTシャツも愛用していた。

 在籍していない選手や、現役でない選手のユニフォームを着るのを快く思わない人もいるそうだ。でもこれもまた野球の楽しみ方。「TABUCHI 22」は、私が阪神ファンになったときの原風景なのだ。

 後ろを見やると、私より年上とおぼしき男性と目が合った。私を指さし、「田淵! 懐かしい」と言った。やがて、立ち上がって私たちの席に近づいてきた。

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