若冲と70年安保

日本の顔 インタビュー

辻 惟雄 美術史家
ライフ アート ライフスタイル

火付け役が語る「若冲ブーム」の誕生秘話

 

(辻 惟雄さんが登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧下さい)

 今日はわざわざ自宅のある鎌倉まで来ていただいてありがとうございます。今年6月で私は92歳になるのですが、最近になって急にNHKやら何やら、あちこちから取材が続いて驚いています。「そうか、『もう辻も老い先長くないゾ』とメディアの皆さんがにらんで話を聞きにきているに違いない」と思っています。数年前には酒を飲んで転倒し、頸の小骨を折ってヤバくなりましたが、悪運が強いのかすっかり完治し、どうにか今日まで生きながらえています。そうは言ってもこれが最後のインタビューになるのかもしれませんが……(笑)。

辻 惟雄氏 ©文藝春秋

 美術史家の辻惟雄氏(91)は1932年生まれ、岐阜県で産婦人科医の次男として育つ。医師になることを親に期待され、東京大学へ入学するものの文学部へと進み、以来、江戸絵画史を専門とした美術研究の道を歩む。文化財研究所(現・東京文化財研究所)技官などを経て東京大学文学部教授、多摩美術大学学長、MIHO MUSEUM館長を歴任、2016年には文化功労者に選定された。

 1968年に雑誌『美術手帖』で連載された「江戸のアヴァンギャルド」では、伊藤若冲や曾我蕭白、岩佐又兵衛といったそれまでの江戸絵画史では顧みられなかった“奇想”の画家たちに光をあてた。同連載をまとめて書籍化された『奇想の系譜』は刊行から半世紀経った今も、絵画史を書き換えた画期的著作として読み継がれている。

 なかでも、同書で取り上げた伊藤若冲は、2000年に京都国立博物館で大回顧展が開催され、人気が爆発。代表作《動植綵絵(どうしょくさいえ)》は2021年に文化庁から国宝指定を受けるなど再評価され、日本美術史の景色を一変させた。

最初の出会いは「マンガ」

 生来、人見知りだった私は明るく伸び伸びとした兄と対照的に、いつもいじけていた記憶があります。胃弱でよくお腹を壊す上に泣き虫で、“めそめそピーピー”とあだ名をつけられ、からかわれてはまた泣くような情けない子どもでした。

 後の美術研究につながる思い出といえば、戦時中は日曜日になると兄と弁当を持参して岐阜県加納にあった児童図書館に行ってはマンガを夢中になって読んだことです。少年少女向けのマンガや絵本、小説がどっさりと揃えられていて、「子ども天国」のような場所でした。確か文藝春秋さんでも戦後に毎月1回、マンガ特集(雑誌「漫画読本」のこと)を出されていましたよ。

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source : 文藝春秋 2024年6月号

genre : ライフ アート ライフスタイル