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「めっちゃ泣いたわ!」 読書家のタイガース・矢野監督を号泣させた一冊の本

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2019/01/05

 ドタバタの監督交代劇から約3カ月。

“矢野タイガース”という言葉も馴染んできました。

 私は新生タイガースに大いに期待しています。当たり前! という声が聞こえてきそうですが、私が期待するのはペナントレースの順位以上に若虎たちの人間的成長です。それが必ず野球の結果につながると思います。なぜ人間的成長に期待したいのか。それは矢野燿大という男にすでに私が変えられたと自負するからです。

矢野新監督 ©時事通信社

男・矢野

 どこかのボクシング連盟の会長を思い出させるワードですが……(笑)。

金本監督が突然辞任し、監督就任の要請を受けた矢野さん(あえて監督と表記しません。矢野さん自身が“監督”という言葉を使わなくていいとのこと。あくまで同じ目線、近い距離でいたい。ここで既に男らしい矢野さんらしいお考え)。

 金本前監督のことを「かねもっちゃん」と呼ぶほど親しい矢野さんが、簡単に監督に就任するとも思えませんでした。なぜ受託したのか。一番の理由は、二軍監督を務めた2018シーズンに選手たちにかけた言葉です。

「チャレンジしよう!」

「終わったことに引っ張られず、前を向いて次の打席で打てばいい、抑えればいい」

 精神的部分について毎日声をかけておきながら、監督就任要請を断れば選手たちに対して言ってきたことが嘘になってしまうということでした。阪神タイガースの監督になるとなれば、矢野さんだけでなく、家族や周りの方へも何かしら環境の変化や影響は出てくるはず。

 ご本人に「ご家族には相談されたんですか?」と聞くと「監督をやるからと伝えた。もう決めてから報告したかんじやな!」受けるかどうかの相談は誰にもしなかったそうです。

 しかしそのあと続けて「星野さんが生きていたら、相談していたかもなぁ」。星野さんは矢野監督をどのようにご覧になっているんでしょうか。

初の秋季キャンプで号泣事件

 1軍監督として初めての秋季キャンプ。ある朝、ホテルの自室で号泣したと言います。

「めっちゃ泣いたわ!」

 やっぱりタイガースの監督って大変なんやなぁ~なんて能天気なことを思いましたがもちろんそんなことではありません(笑)。

 読書家の矢野さんは約30冊の本を持って高知県に入りました。ホテルを出発する前に自室で読書の時間を設け、それから球場へ向かうのがルーティーン。読むのは小説ではなく、気持ちが前に向くような成功体験や、偉人の物語など。その中の一冊が矢野さんを号泣させたのです。

“鏡の法則”。息子がいじめをうけて悩んでいた41歳の主婦が、ある人のサポートのおかげで人生で未完了だった問題に気付き、悩みを解消した上に人間的に成長するという実話です。一人の大人の女性が自分の父親と和解し、そこから成長していく姿。私ももちろん読みましたが、誰もが自分に置き換えることができ、涙するようなストーリーでした。矢野さんは本で泣ける人間味のある男なのです。感情移入できる=相手の気持ちを考えることができる。選手にとってこういった指揮官は嬉しいのでは。

 ちなみに私が勧めてもらった本は“世界一ふざけた夢の叶え方”。男性3人がどうみても「無理やろ!」という夢を語り合い本当に叶えてしまった! という、これも実話です。どんなことも「無理」なことはなくて、言い続ければ叶うということでした。

 さらには、先ほど紹介したように矢野さんは練習後の夜ではなく、朝に時間を作って読書をされています。私は腹筋を日課にしていていつも夜の就寝前にやるようにしていました。「それを朝にやってみ? 一日が全然違うぞ!」矢野さんの一言で、翌日から早速実践。すると驚くほど一日を過ごす気持ちが変わったのです。夜にやっている時は日中ずっと頭のどこかで「寝る前に腹筋をやらないといけない……」と思いながら過ごしていたのですが、それを朝に済ませるだけで余計なことも考えなくで済みますしなにより「私はもうやることをやった!」という清々しい気持ちで過ごすことができるのです。何の話や! と言われてしまいそうですが、矢野さんはこちらがやる気にしてくれるような言葉のかけ方をして、なるほどと思うことが本当に多いのです。