「○○という部分においては、えー、××という風に思うわけです。オッケーィ??」
おしぼりを片手に大きな目を光らせ、報道陣を見回す。原辰徳監督が試合後の会見を切り上げようとするときの合図だ。原監督の言語センスは常人とはかけ離れているため、正直言ってたいがいオッケーではない。あれってこういうことだよな……。結局監督は敗因をなんだととらえているんだろう……。独特の表現を苦心して解釈しながら原稿にしていった思い出がある。先日行われた3度目の就任会見でも「命(メイ)が下った中で~今回も三たび! ということで~」「チームの長所も欠点も知り尽くしている由伸監督をスタッフに加わってほしかったが、彼は時間をうかがいたい、ということだった」などと変幻自在のタツノリ節は健在だった。
夢の続きは長い。原辰徳がまた帰ってきた。在位11年間でリーグ優勝7回、日本一3回の実績は巨人では15年間で日本一11回の川上哲治氏に次ぐ好成績で、戦力が拮抗した近代野球では屈指の名将と言っていいだろう。同一球団での3度目の監督就任は史上3人目と異例だが、球団ワーストタイの5年連続V逸というピンチを前に、フロントが原氏を頼ったのも無理はない。原辰徳は勝利に対してどん欲である分、非情でもある。内海のプロテクト漏れに関しても「取られないだろう」と思ったから外したのではなく、「取られてもやむを得ない」と考えて外したのだと思う。6度もリーグVに貢献した内海を見切ってでも、来年の勝利のためのチーム強化にまい進する姿勢こそ、フロントが求めていたことなのかもしれない。
長嶋政権のヘッドコーチとして帝王学を学んだ原辰徳の野球は、枢軸野球である。第2次政権前期は高橋由伸、阿部慎之助の生え抜きコンビに小笠原、ラミレスを加えて3連覇を飾った。後期は坂本、阿部、長野に村田、杉内を加えて再びV3。チームの背骨さえしっかり作れば、あとは若手や脇役たちがのびのびと力を発揮する。そんな信念があるのだろう。村田が去り、阿部が年齢を重ねた今、新たな枢軸を整備すべく、2年連続MVPの丸を迎えた理由はその考え方の延長線上にある。
「プロップス」が高い選手が好きな原監督
ヒップホップの世界にプロップス、という言葉がある。ミュージシャンとしての実力に加えて、過去の実績、存在感、生き様などをひっくるめ、ファンや同業者からどれぐらいリスペクトを集めているか、というような意味合いだ。日本語で近いのは「格」や「評価」だろう。プロ野球の世界もプロップスがかなりの意味を持つ。
かつて、楽天の山崎武が走者なしの状態でクイックモーションを使ってきた西武の牧田に対して「1年目で何をやっているんだ」と怒鳴りつけた事件や、1996年にロッテの開幕投手が園川一美だったことについて当時ダイエーの王監督が「開幕投手には格というものがあるだろう」と苦言を呈した事件なども「プロップス」で説明がつく。そしてプロップスが高い選手が大好きなのが、巨人というチームであり、原辰徳という指揮官なのだ。だから今回も丸のほかに再獲得の上原、岩隈、中島といった実績十分の選手を集めた。
ただ、プロップスの高い選手をかき集めれば自動的に強くなる、というほどプロ野球は甘くない。巨人も2000年代前半、清原、小久保、ローズ、ペタジーニら、各球団の4番をかき集めたものの、すぐに機能不全に陥ったトラウマがある。プロップスの高い選手は基本的に年齢もプライドもギャラも高く、現有戦力との融合がスムーズに進まなければ、それぞれがまったく力を発揮できずじまいということも十分にあり得る。
しょっちゅう史上最大クラスの大補強をする巨人だが、最近の成功例は第二次原政権で5冠を達成した2012年だ。2年連続で落合竜の後塵を拝したこの年のオフ、巨人は横浜の4番村田修一をFAでゲット。パ・リーグからは沢村賞左腕杉内と前年最多勝のホールトンを獲得し、他球団関係者も「さすがにそれはないだろう」とあきれるほどの巨大補強を敢行した。その結果、最終的には2位に10・5ゲーム差の大差をつけて独走優勝を果たした。内海が最多勝、阿部がMVPと生え抜きの二人が大黒柱として君臨しつつ、新戦力がガッチリと脇を固めたこの年のチームは近年のジャイアンツでもベストチームと言っていいだろう。では今年、その再現は可能なのか。