ICT(情報通信技術)業界は浮き沈みの激しい界隈で、突然新星のようなベンチャー企業が爆誕してドーンと成長して上場することがあったかと思えば、期待を集めていろんな人がちやほやしたけど鳴かず飛ばずで低迷しっぱなしのところもあり、ほんと浮き沈みが激しいんですよ。一番派手なのは上場して売上ガンガン伸ばして時代の寵児と言われ「賢人だ」「日本経済の将来を担う人物だ」と持ち上げられた後で慢心して事業のピークが超えて神輿ごと地面に叩きつけられるケースであります。

舶来モノの素晴らしい経営手腕だと持ち上げられまくっていた

 日産のゴーン前会長などは、倒産寸前だったヤバい日産をどうにかするために出てきて、賛否両論とはいえ荒療治的なリストラを積極的に行いコストカットして復活させた立役者で、これぞ舶来モノの素晴らしい経営手腕だと持ち上げられまくっていたのは記憶に新しいわけです。ゴーンさんも、その華々しい日本デビューからせいぜい、ここ10年の話ですからね。

 いまではあんなことになってしまいましたが、ぶっちゃけ日産の業績を回復させ、兆円単位の時価総額まで戻し、中国市場で150万台もの日産車を売り、三菱自動車や露・アフトヴァースなど世界の自動車メーカーの主力の一角にまでルノーグループを育て上げたはずの名経営者なんだし、たかだか50億円程度のカネのごまかしはいいじゃないかっていう話が海外の投資家からはよく出るんですよ。

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かつては「改革者」の象徴だったゴーン氏 ©共同通信社

 考えてみると、たたき上げの経営者が自身の創業した企業を例えば東証一部に上場させました、となれば、下手すると4桁億円以上の時価総額の何割かが自分の持ち株になって、大変な大金持ちになります。これはこれで、素晴らしいことです。リスクを取って企業を成長させて上場にまで漕ぎ着けたわけですから、それまでの苦労を考えるとそのぐらいの創業者利益を得ても当然だよねって思う人が出てもおかしくはないでしょう。

ゼロを1にした創業者は偉くても

 別段、そういう巨額の創業者利益を得て芸能人を囲おうが月に行こうとしようがまったく構わないわけなんですが、カネがあればあったなりに、そのカネをどう使おうが自由と言いつつ社会や世間に望まれる金持ちになれるかどうかというのはその人の教養や性格に起因するものが大きいと思うのです。金持ちは単にカネを持っているのではなく、金持ちに相応しい行動や評判を得ていないと嫉妬交じりに叩かれることもまた多いわけですから、自然と大人しくなり、カネを見せびらかさなくなるのです。

 一方、ゴーン前会長の場合は、述べた通り創業者ほどの個人的利益は雇われ経営者として得られないのもまた事実で、どんなに実績を重ねたって創業から上場までリスクを取り続けた経営者には足元にも及ばないような報酬しか得られないわけですよ。世界遺産ヴェルサイユ宮殿で再婚相手と結婚式を挙げるほどの見栄っ張りなのに、成功した経営者としてはたいした金持ちになれないのが不満だったんじゃないかと思ったりもします。

 ゼロを1にした創業者は偉くても、1を10にしたり、マイナスをプラスにするプロ経営者はそこまで評価されるわけではない、というのが冷徹な資本主義の現実でもあります。ましてや、伝統的な日本企業で経営幹部として上り詰めて頑張った人でも、年俸が10億円を超える人は稀です。人柄が素晴らしく、神様のような経営手腕を持っていても、うっかりやらかせばカネが全部なくなってしまうぐらいの報酬でしかないというのは意外と知られていません。