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「愛情を注ぐのは、自分を満たそうとするよりずっと楽しい」作家・瀬尾まいこさんが「幸せな主人公」を描く理由

『そして、バトンは渡された』本屋大賞受賞インタビュー

2019/04/10

genre : エンタメ, 読書

note

 いちど聞けば人に強い印象を残す本書のタイトル『そして、バトンは渡された』は、何か大事なものが受け継がれていくさまを表しているんだろうか。

「そうですね、優子さん自身が血のつながらない親のあいだを大切にリレーされていくバトンのような存在だとも考えられますし、優子さんを介して親たちの愛情がバトンのごとく受け継がれていくと見ることもできる。いろんな意味として捉えることができると思います。ぜひ自由に読み取っていただけたら。

 

 今作にかぎらず私には、『作品を通してこういうことを言いたい!』という強いメッセージがあるわけではないので。優子さんにしたって、逆境に負けない強い人を書こうと思ったりしたわけではまったくなくて、みなさんが読むのと同じ順序で前から出来事を書いていったら、知らずだんだん彼女が強くなっていたなという感じです」

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いつの間にか家族について書いている

 作品のテーマにしても、いつも事前にきっちり設定するということはないのだとか。引きこもり作家のもとに初対面の25歳の息子が訪ねてきて同居生活を始める最新刊『傑作はまだ』や、「父を辞める」と宣言した父と家出中ながらも料理は届けに来る母がいるヘンな家庭のお話『幸福な食卓』……。家族を描くイメージは強いけれども、それとて意図的に取り上げているつもりはない。

「とくに家族を描こうとは思っていないんです。人と人が出会い、いろんな関係を取り結んでいくのがやっぱり楽しいなと思って書いていたら、家族関係の話が多くなっていただけでして。

 

 ただし書いていて、家族についていろいろ気づくことはありますね。『そして、バトンは渡された』なら、血がつながっていれば『はい、家族のできあがり!』ということになんてならないというのを、改めて思いました。家族はあらかじめそこにあるわけじゃない。いっしょに暮らして日々何かを積み重ねていったり、森宮さんのように自覚的に親になろうと努めたり、そうやってつくられていくものなんですね」