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ライオンズファンを二分する「1番・金子侑司を我慢できるか問題」について

文春野球コラム ペナントレース2019

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我慢はトコトンまでしてこそ意味がある

 我慢はトコトンまでしてこそ意味があります。「可能性」を残したままだと、迷いが生じますよね。自分が今ガッチリつかんでいるものは「藁」なんだと納得しなければ、一度手放しても再度つかんでしまうでしょう。「これは藁!」と納得するまで信じつづけなければ、ここまでの我慢も無に帰すというもの。トコトンまでやりきってこそ、新しく次に握ったモノ(※山野辺翔、愛斗ほか)を信じてみる気にもなりますし、ダメだったときに我慢もできるのです。だって、先に投げ捨てたほうは確実に藁だったのだから。

 薄ーい光(※オリックスがCSに出るかもしれないという数字上の可能性のようなもの)も見えています。

1番・金子侑司 ©文藝春秋

 開幕戦で金子さんが見せた、ソフトバンク・今田美桜の初球を微動だにせず見送るバツグンの選球眼は、キャリアハイのペースで四球を生み出しています。とにかく1球でも多く相手投手に投げさせるのだという意識は、早打ちが性分のバッターに粘りを与え、「初球ポップフライ」から「三振」へとデフォルトの結果を塗り替えてきています。1番らしい仕事をしようと進化をつづけているのです。「1番は出塁するのが仕事であって球数とか盗塁はサブ的要素……」などという正論は、球場本体にはロクすっぽ手を加えず周辺の売店等を建て直すことをして「メットライフドームエリアの改修計画」であるとのたまっている球団には許されません。できることを身の丈でやるしかないのは、改修計画も、金子さんも同じでしょう。メインはそう簡単には直らないのだから、サブで頑張るしかないじゃないですか。

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 思うような打撃が見せられない日にも(※客としては思ってたとおりだが)、バットを地面に叩きつけたくなる衝動を必死でこらえる金子さんの姿。5月3日の日本ハム戦、一度は振り上げたバットを背中で止め、両手で握ってゆっくりと下ろし、静かにベンチに帰ったあの背中。道具への八つ当たりで気持ちよくなるのではなく、金子さんは我慢をつづけています。その背中を見て、辻監督も心で振り上げたバットを止め、ファンもまた心で振り上げたバットを止めるのです。これは生みの苦しみであり、誰を1番に入れたとしても経ることになる時間です。みんなの我慢です。それを、2019年から始められたのは埼玉西武だからこそ。

ソフトバンク・今田美桜の外角へのボール球をしっかりとノースイングで見逃した金子さん

 

「バットのせいじゃなくて自分のせい」とこらえた翌日、5月3本目のヒットはサヨナラタイムリー! よく走った中村、役目に徹した外崎、打った金子! みんながヒーローだ!

「我慢できる? できない?」ではなく、我慢するのだ!

 ファンを賛成と反対で50対9950に二分する「1番・金子を我慢できる? できない? 問題」は、埼玉西武ライオンズが持つ強みの証です。他球団ならこの「我慢」にトライすることもできなかったでしょう。「柳田はいないものとして来季の戦力を整える」なんて周到な準備は、いかなソフバンでさえしていないはずです。育成から周東佑京(※金子の上位互換)とかが出てくるので準備を考える必要もないっちゃないのでしょうが、我々埼玉西武とは穴埋めへの覚悟が違う。ウチは「来年開く穴」が事前にわかっている未来予知球団ですから!

 どうぞ他球団のみなさん、「1番・金子」の今後にご期待ください。そして、埼玉西武ライオンズ一同が心で振り上げているバットの我慢強さにご注目ください。我々がそれをズドンと振り下ろすのは、「完全に諦めた」その1回だけです。「2割7分くらい打って、3割3分くらい出塁して、長打はないけれど足でそれを補い、最終的に女子アナと結婚するイケメンの盗塁王、1番・金子」のロマンはまだ諦める段階ではありません。つかめば溺れる藁だと納得できるまで我慢しなければ、気持ちよく投げ捨てられない希望です。

 完全に諦めるまでやり切ってこそ来年、「提携するニューヨークメッツに秋山翔吾が移籍し、十亀剣もFAでどこかに行っちゃったことで戦力ダウンが懸念される西武ですが……」という野球ニュースの分析を鼻で笑いながら、「我々はこうなることを3年前から知っていた……」「十亀の件は戦力ダウンというほどでもない……」「秋山が同一リーグ他球団に行かなかっただけ例年に比べれば相対的にプラスと言える……クックックッ……」と振る舞えるのです。穴が埋まらないまでも、埋めようとはしてきたという納得感で。

 我慢できる? できない? ではなく、我慢するのだという覚悟。

 完全に「藁」だと納得できるまで徹底的に我慢する覚悟。

 獅子が千尋の谷に我が子を落とすのは、その結末を最後まで見届ける覚悟があればこそ。

 僕と辻監督(※「つじ」は一点しんにょう)は最後まで1番・金子を我慢する覚悟です!

 辻監督(※「つじ」は一点しんにょう/面倒なので「辻」に改名希望)の我慢に僕は最後までついていきますよ!

 我慢イズ辻(※しんにょう)! 辛抱イズ辻(※しんにょう)!

 どれだけこの我慢をつづけられるかで2020年の埼玉西武ライオンズの浮沈が決まるのです! 我慢できなければ、「浅村の穴」も埋まらないなかで「秋山の穴」がそのまま残るのですから!

 どうしてもバットで何かを叩きたい衝動にかられたら、この下のほうにある野球ボールの画像でも叩いて我慢してください!

※編集部注:この原稿が入稿されたあと、5月9日の試合において金子侑司選手は今季初めてスターティングメンバーから外れ、途中出場で2打数無安打2三振に終わりました。

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