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連載この鉄道がすごい

新快速の有料座席サービス「Aシート」500円は高いか、安いか

私鉄との競争が激しく、座席水準の高い京阪神だが……

2019/06/16

genre : ライフ, , 企業

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 5月25日土曜日、滋賀県の野洲駅から兵庫県の姫路駅まで「新快速」に乗り通した。リクライニングシートの有料座席「Aシート」を初体験だ。新快速は通常座席も2人掛けクロスシートだ。そこにワンランク上の座席を投入した。もともと座席サービス水準が高い上に、財布のひもが固い地域柄だ。はたして、1回500円の有料座席に需要はあるか。

3月16日に運行を開始した「Aシート」 ©共同通信社

関東では「有料座席」サービスはすでに一般的に

 関東大手私鉄は通勤列車の「有料座席」設置が一巡した。もともと小田急電鉄や東武鉄道、京成電鉄は通勤時間帯に有料特急を運行しており、それなりの通勤需要があった。それをヒントに、国鉄(現JR)が「ホームライナー」を始めた。特急列車が行楽地などから帰る客を乗せて都心に着くと、空車のまま車庫へ回送される。その空車に格安料金で帰宅客を乗せようというアイデアだった。

 国鉄のホームライナーは成功し、朝の通勤時も「おはようライナー」などが走り始めた。近年は、大手私鉄などで有料座席を持たなかった会社や路線も参入した。京急はクロスシート車の2100形を使って「京急ウィング号」を開始。東武鉄道東上線は「TJライナー」を導入。車両は、日中にロングシート、座席指定時に90度回転させて2座席前向きのクロスシートになる。西武鉄道も特急以外に東京メトロ直通の「S-TRAIN」を始めた。こちらも座席を90度回転させる方式。土休日に東急東横線に乗り入れる。さらに大井町線で平日夕方に「Qシート」を開始して、有料座席通勤車両の運行会社になった。

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関東では普通列車のグリーン車が一般的になっている ©iStock.com

 これで実質的に都内から郊外へ向かう大手私鉄はすべて有料座席を始めた。関東大手私鉄としては相模鉄道が未導入だ。この秋からJR直通運転が始まって長距離運行になるけれど、さて、どうだろう。むしろ横浜発着列車に導入して魅力アップを図るかもしれない。

新生活を始めるなら、こっちの沿線に住んでね

 関東大手私鉄で有料座席列車が流行る理由は、増収という単純な話ではない。沿線に住む人へのサービスアップだ。ラクに通勤できる電車を走らせるから他社沿線に引っ越さないでね。新生活を始めるなら、こっちの沿線に住んでね。そんな意図がある。利用する側も、座れない、座れても長いベンチのようなロングシートに横並びでは窮屈だから、ちょっとお金を払ってでもラクな席に座りたい。

関西圏では、毎日多くの新快速が運行されている ©iStock.com

 さて、新快速に話を戻す。JR西日本が京阪神で運行する新快速は、もともと2座席前向きのクロスシートだ。そして関東ほど通勤電車は混んでいない。JR東日本は湘南新宿ラインや上野東京ラインの普通列車にグリーン車を連結していた。グリーン車は国鉄時代からの伝統的な上級座席サービスだ。総武線や常磐線にも導入され、現在は中央線快速にも導入する計画だ。しかし、JR西日本では普通列車のグリーン車はない。例外として、瀬戸大橋線を走る快速「マリンライナー」がある程度だ。

 そんな京阪神エリアで、なぜ、普通列車の有料座席が導入されたか。