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転職活動の「自画自賛大会」におののく

カネなし、カレなし、コネもなし。30オンナの脱力系転職活動記

2017/02/09
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「舐めててすみませんでした」

 2016年10月某日。私は心の中で転職活動の神様に謝罪しました。そんな神様がいるのかは知りません。ですが、八百万の神がおわすこの国、転職活動の神様ぐらいいるのではないでしょうか。その神様に謝りながら、すっかり冷えてしまったコーヒーを口にしました。

 その頃、私は毎日のようにスターバックス(スタバ)で職務経歴書と格闘していました。

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転職活動という自画自賛大会におののく

 職務経歴書とは、読んで字のごとく、自分がどのような仕事をしてきたのか、その経歴を記したものです。

 さかのぼること8ヶ月前、転職活動をしている友人に、はじめて職務経歴書なるものを見せてもらいました。そのときの私の心情を、何と表現したらいいでしょうか。

「何億円のプロジェクトリーダーを務め、○○を達成」
「○○を前年比120%増加させた」……(○○は、私の知らないカタカナ語)
 

 友人は優秀ですが、ごくごく普通の日本人の感性の持ち主です。なのに彼女は! 書類の上で! 自分を! 褒めたたえていたのです!!

 私も謙遜を美徳とする日本人です。ですが、転職市場においては、まるで自分が唯一無二の優れた存在であるかのようにふるまわないといけない――。のけぞっていると、職務履歴書とはそんなものだと友人に諭されました。

 パッとしない元新聞記者である私の経歴をどうこねくり回しても、こんな素晴らしい職務経歴書は書けそうにありません。当時の私は疲れ切っていました。大したことない自分の経歴を石膏で塗り固めて、転職市場という名の自画自賛大会に飛び込むほどの体力も精神力も残っていませんでした。

 しかし、転職市場という名のバトルフィールドにおいて、職務経歴書は初期装備中の初期装備です。これなくして戦うことはできません。しばし思案したのち、私は敵前逃亡(短期留学)することに決めました。そう、あのとき、私は職務経歴書に不戦敗を喫したのです。

キヨシマの転職活動メモ
一、仕事を辞めてから転職活動するなら、職務経歴書を書く気力と体力をとっておけ

職務経歴書とリベンジマッチ

 季節は巡り、秋になりました。私は語学留学という名の高飛びで英気を養い、帰国しました。

「今なら職務経歴書と戦える!」

 リベンジマッチです。正確に言えば、不戦敗なので前回はちゃんと戦ってすらいなかったのですが。

 そうして、冒頭のスタバで、職務履歴書と格闘していました。
  
 まずは、見本探しです。「職務経歴書 記者」「職務経歴書 ライター」などと、思いつく限りの文言で検索をかけてみます。しかし、新聞記者向けの職務経歴書はさっぱり見つかりません。

「職務経歴書」が私の目の前にそびえ立つ壁のように見えました。それだけ新聞記者は転職しないのか、同業他社に転職するからあまり職務経歴書は必要としないのか。ぴったりマッチするものはありませんでしたが、たくさん見ていくうちにすこし感触もつかめました。

職務経歴書に書けることがない

 仕事の成果を、数字を用いて具体的に示すことはできませんが、

1、自分にできること(やったことのある取材のジャンル、専門分野)

2、 その証拠となる具体的なエピソード

 この二つをしっかりまとめれば、それっぽく見えるだろうと、とりあえずは結論付けました。さっそく、思い出せるエピソードを書きだしてみます。

「1週間ケータイの電波が届かない山奥に通い、熊と遭遇するもめげずに地取り(聞き込み取材)した」

「豪雨で氾濫した川とえぐれた道路をものともせず、被災地の取材をした」

「おばあちゃんと仲良くなってガンクビ(顔写真)を取ってきた」

 駄目です。新聞社で職を得るためには有効かもしれませんが、ほかの業界では全く生かせそうにないし、そもそも「何言ってるのかちょっとわからないですね」と言われそうな思い出しか出てきません。

自作のスクラップブック ©キヨシマ

ひとり反省会でぐったり

 そこで、自分が書いた記事を切り抜いたスクラップブックを見て、主だったものまとめることにしました。その後、応募する企業ごとに、適宜ふさわしいものをピックアップして職務経歴書を仕上げる算段です。

 私は特ダネ記者ではありませんでした。そのため、記事を量産することで生き残る作戦を立てており、「県版アタマ記事」と呼ばれる、各県のページでいちばん長い記事を月4、5本は書いていました。つまり、少なく見積もっても勤務した5年間で、240本くらい長めの記事があるのです。塵も積もれば山となるもの。これだけの数を読み返すのは一仕事です。読み返しながら、ひとり反省会をすることもしばしばでした。特に1年目の記事などは、こりゃあひどい!と目も当てられません。このとき迷子になったな、写真の撮り直しをさせられたな……。はぁ。捨てようと思った雑誌を読みふけるのに似ているかもしれません。

 結局、読み込んでこれまで書いた記事の一覧(A4にして12枚!)を作り、さらにそこから目ぼしいものをピックアップ。職務経歴書を作るのに、まるまる2週間もかかってしまいました。

 この経験から私が学び、皆さんにオススメするのは、日報を付けることです。週報でもいいですが、自分の仕事を日々コツコツと書き出しておくと、いざというときサッと職務経歴書を作ることができます。転職しないにしても、日々書き出すことで自然と自分の仕事の棚卸ができます。

 退職から始まった2016年。私はあらゆるものを失いました。職、カネ、仕事で得た人間関係……。失うばかりと思っていた無職の日々の中で、得た物もありました。ステインです。

 ステイン。あの、歯が茶色っぽくなるやつです。職務経歴書を完成させようと、スタバでもがくうち、職務経歴書より先にステインをゲットしました。なお、このステイン、いまだに私の歯に付着しています。就職先が決まったらお別れしようと考えている、目下の相棒です。

キヨシマの転職活動メモ
一、 転職の予定はなくても日報はつけろ、日報は汝を助く

 ※この連載は、新聞記者として5年働いたキヨシマによる、「脱力系」転職活動記です。書かれていることは全て現在進行形のノンフィクションです。

転職活動の「自画自賛大会」におののく

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