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第3回:夢見る少女はリアリストもしかして、シンデレラって「男物語」なんじゃね?

genre : エンタメ, 読書

敵から身を守るためなのか、世間に認めてもらうためなのか。今日も女は、心身ともにさまざまな「甲冑(かっちゅう)」を着たり脱いだり大忙し――。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で大ブレイクしたジェーン・スーの最新エッセイが連載で登場! 収録されているエッセイ6本を5月28日の発売に先行してお披露目します。あなたが知らない間に着ているのは、どんな甲冑?

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。

ジェーン・スー(著)

文藝春秋
2016年5月28日 発売

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 ディズニー映画の『シンデレラ』がずいぶんポリティカリー・コレクトになったと聞いたので、二十代半ばの女友達と見に行ってきました。

 シンデレラ。この物語を幼少期に読み聞かされ、女の幸せとはなにかを刷り込まれた女性も多いと思います。ご多分に漏れず、私もそのひとり。美しい心(と外見)を持ってひたむきに生きていれば、やがて素敵な王子様が私を探して迎えに来てくれる。ハッピーエンドのおとぎ話と自分を無邪気に重ねた女児は、世界中にゴマンといたでしょう。その数は、いまだ増え続けているに違いない。

 シンデレラの物語はやがて「シンデレラ・ストーリー」として広義に解釈されるようになり、聞き手が大人になるにつれ玉の輿と同義になります。もしくは身分の飛び級とでも言いましょうか、経済力もコネもない女が、権力者からピックアップされる夢のような物語。それが「女は自分自身の力で幸せを掴めないのか?」と議論を呼び、ディズニーの再解釈では、シンデレラは主体性と自己主張のある女に描かれていました。

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 シンデレラは「エラ」という名前で登場します。ご存じの方も多いと思いますが、シンデレラは日本語では「灰かぶり姫」。CinderellaはCinder(石炭などの燃え殻や消し炭)のEllaという意味で、彼女の本名はエラ。継母とその娘達に付けられた蔑称がシンデレラというわけです。

 念のため、映画のあらすじを共有しておきましょう。一点の曇りもない幸せな日々を過ごすエラに訪れる、突然の母の死。病床の母親は、「どんな試練にも負けない秘訣」として、「勇気と優しさを忘れないで」と遺言めいた言葉を残します。のちに再婚した父親は不在がちで、エラは継母とその娘達に召使いのように扱われる。思わぬ現実にエラが泣きぬれているうちに、父親は旅先で死んでしまいます。なんという役立たず! ここまでは、子どもの頃に読んだお話と一緒です。

 映画では、継母は徹底的に底意地の悪い女として描かれながらも、それは次の寄生先を探す必死さの裏返しともとれる演出がされていました。女手ひとつで二人の娘を食わせていくのは不可能な時代の話だな、と私は少し同情的にさえなりました。しかも娘二人の頭が悪く、外見もひどく不細工。シンデレラに対する娘達の意地悪も、美しいシンデレラに対する嫉妬というよりは、単に協調性のないアホ姉妹なだけではないかと思わせる作りです。女vs女の熾烈な戦いの土俵に、アホ姉妹は上がれてすらいません。シンデレラの聡明さを引き立てるための演出かもしれませんが、なんだかだんだん悲しくなってくるんですよね。こんな娘が二人もいたら、そりゃ将来経済的に安泰な寄生先(男)を捕まえないと死ぬに死ねんと継母も思うだろう。デキの悪い娘二人の未来を憂う母にしてみれば、そりゃエラは邪魔者だ。人にはそれぞれ事情があります。

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