敵から身を守るためなのか、世間に認めてもらうためなのか。今日も女は、心身ともにさまざまな「甲冑(かっちゅう)」を着たり脱いだり大忙し――。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で大ブレイクしたジェーン・スーの最新エッセイが連載で登場! 収録されているエッセイ6本を5月28日の発売に先行してお披露目します。あなたが知らない間に着ているのは、どんな甲冑?

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。

ジェーン・スー(著)

文藝春秋
2016年5月28日 発売

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 当方、43歳の都会で働く大人の女です。しかし、目が覚めて布団から出た瞬間の私はそうは見えない。髪の毛はボサボサ、パジャマは上下バラバラ、意識は朦朧(もうろう)。ヘタしたら加齢臭。男か女かもよくわからぬ生命体です。

 そこから「自称、都会で働く大人の女(43歳にしては若々しい)」になるためには、心身ともにさまざまな甲冑(かっちゅう)を装着せねばなりません。所属する軍を装具で表明せねば、スムーズに日常生活を営めなくなってしまいます。

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 買ったばかりの服、イヤフォンから流れる音楽、誰かを真似た髪型。自分を守るためなのか、世間に認識してもらうためなのか、はたまた外的要因とは無縁の内側から湧き上がる欲望が故なのか、私が身につける甲冑はいろいろです。一貫性があるようで、ない。着たり脱いだり毎日は忙しく、心のクローゼットはいつもパンパン。ごちゃごちゃの装具を前に毎朝ファーとため息が漏れ、こんなにあるのに「まだ足りない……」とも思ってしまう。バッチリ決まった! と意気揚々と戦に出たのに、水たまりに映る己の不格好さに落涙してしまう日もある。

 そもそも、なぜこんなに甲冑が増えてしまったのでしょうか。当初の目的は、日々の戦いで自分を守り、勇ましく己を鼓舞するためだったはずです。しかし、傷付くことから自分を守るための繊細レーダー、つまり甲冑を選ぶ基準になる自意識のことですが、これがどうやら朗らかに生きるのを阻む足枷(あしかせ)にもなっている。そう気付いたのは三十代半ばごろでしょうか。

「女の人ってこういうのが好きなんでしょ?」と言われてふざけんなと思うようなアイテム、たとえばヨガ。どうせ私になんか似合わないと諦め気味なアイテム、たとえば赤い口紅。「形ばっかりのファッションファッション」と指差し嗤(わら)いながら、本心では仲間に入れて~と指をくわえてしまう流行りもの、たとえばオーガニック生活。てらいなく軽やかにその手の甲冑を装着する健全な婦女子を横目に「あのブドウは酸っぱいに違いない……」と呪いの言葉を吐くのに、もう疲れました。疲れてもなお止められないのが悔しいのですが、私だって本当はその甲冑を身につけてみたい。しかし現実は、女であることに喜び、戸惑い、持て余し、外から女を期待されると反発し、内なる自分に女が不足していると感じれば肩を落とす日々。

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