文春オンライン

第1回:女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。女のクローゼットには、見えない「甲冑」が並んでいる。

genre : エンタメ, 読書

note

 片や、もう若くないと自覚した途端「いくつになっても若々しく知的に、いまを生きたい!」という願望がむくむくと湧いてきました。たとえ年を重ねても、世間に疎い乗り遅れ中年にはなりたくないのです。しかし、自己防衛レーダーは加齢とともに劣化している。それに気付かず的外れな甲冑を用意して、ゾッとするのが四十代の入り口から。

 七分丈レギンスはアウトだったなんて、私はまったく知らなかったよ。まさか自分が「若い人の間では、こういうのが流行ってるんでしょ?」と見当違いな曲をカラオケで歌うようになるとはねぇ。

 かと思えば、思春期となんら変わらぬ虚栄心に振り回され自撮りを加工したり、いくつになっても京都を愛する女になれない自分を恨んだり、私が着用してしまう甲冑は、理想とする大人の甲冑スタイリングには、いつまで経っても辿り着きません。戦いにおいて自分を守り、飾るための甲冑なのに、甲冑選び自体がすでに戦いの様相を呈しています。365日甲冑着回し術、この戦は、そう簡単には終わらない。

ADVERTISEMENT

 女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。ならば、手持ちの甲冑と未入手の甲冑、それぞれ身につけ精査してみようではないか。フランス人は10着しか服を持たないと言うし、ときめくものだけ残せと言う人もいる。思い込みのストッパーを外し、似合うか否か、必要か否かを頭で決めつける前に試してみる。無理だったら大袈裟に傷付かず、ハハハと笑って次へ行こう。どうしても手放せないなら、納屋にでもしまっておけばいい。

 膨れ上がったクローゼットを前に、私は立ち上がりました。

(「まえがき」より)

ジェーン・スー

ジェーン・スー

東京生まれ、東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」でパーソナリティーを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社)があり、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。

第1回:女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。<br />女のクローゼットには、見えない「甲冑」が並んでいる。<br />

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー