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【巨人】まるで少年ジャンプ ラッキーボーイ小林誠司が体現する『友情・努力・勝利』のWBC

文春野球コラム ペナントレース2017

小林誠司=桜木花道?

「あのバックスクリーンへの打球、昔ここで見たゴジラ松井の弾道とそっくりだよっ!」

 客席の年季の入ったオールドファンは筒香嘉智の先制アーチを見て嬉しそうにそう言った。その一発をきっかけに東京ドームでは一気にビールが売れ出す。いつの時代も、圧倒的なホームランには停滞した空気を吹っ飛ばす力がある。6回裏に筒香弾を含む一挙5点の猛攻でイスラエル代表を突き放し、日本代表はWBC6戦全勝で準決勝へと駒を進めた。6試合で計46得点と活発な打線、ファンを飽きさせない賛否両論が分かれる継投策の数々、19時開始のため終電を巡るスリリングな攻防戦……そのすべてのベースボールアトラクションに観客は盛り上がった。

 そして、今大会で多くの野球ファンを沸かせているのが正捕手を務める小林誠司だ。なにせ普段は本拠地で味方のはずの巨人ファンからさえも「代打ヨシノブ!」とか野次を飛ばされていた男が、WBCの大舞台で打席に入る度、球場全体から大きな拍手を送られるドームの奇跡。それはまるで名作漫画『スラムダンク』でバスケ素人の桜木花道が先輩ゴリ赤木の助けも借り、驚異的なスピードで成長してチームの救世主へと変貌していく姿と重なる。顔面に直撃したボールがそのままゴールインする桜木、ボテボテの投手ゴロが貴重なタイムリーになっちゃう小林。ちなみに両者とも人生のターニングポイントは「頭を丸刈りにすること」だった。戦前は誰も予想だにしなかった侍ジャパンのボウズ君の逆襲。

侍ジャパンのラッキーボーイとなった小林誠司 ©getty

WBCに感じる“少年ジャンプ”的世界観

 それにしても、なぜ俺らはこんなにもWBCに熱くなるのか? それはこの大会がみんな大好き「友情・努力・勝利」の世界観で成り立っているからだと思う。昨季リーグ打率最下位の小林がエース候補・菅野智之の女房役として代表招集。そんな空気を察してさりげなく小林をフォローする菅野の姿。さらに先輩ゴリ…じゃなくて師匠・阿部慎之助からはLINEで激励。まさに『キン肉マン』顔負けの友情パワーである。チームで一番下手な奴が懸命に努力して勝利を目指す小林の成長物語。これぞ少年漫画の王道。なのに顔は少女漫画の主人公風イケメン。そりゃあドームの客席で5歳くらいの女児が「コバヤシ君の笑顔可愛いっ」とか言いたくもなるよ。

 だいたい普段は異なる球団で戦うライバルのはずの選手たちが、巨大な敵に立ち向かうために一時休戦してチームを組む侍ジャパンのコンセプトが、そのまんま『ドラゴンボール』でサイヤ人のラディッツに対抗するため手を組んだ孫悟空とピッコロである。やがて物語が進むにつれ今度はベジータを味方につけ、さらに強敵のフリーザに立ち向かっていく。昨日の敵は今日の友。なあバレンティン、オラと一緒にアメリカ行こうぜなんつって。「まるでマンガの世界」と称された二刀流の大谷翔平がいなくても、充分に少年ジャンプの連載漫画みたいな展開のWBC。そのど真ん中にいるのが、小林誠司というわけだ。

小林誠司とおっちゃんファンの歴史的和解

 イスラエル戦の東京ドーム2階席で見た忘れられない光景がある。「小林誠司」と書かれたネーム入りタオルを首にかけているスーツ姿のおっちゃんがいたのだ。これまで数百回と巨人戦の東京ドームに行っているけど、22番グッズを身につけているファンのほとんどは女性。特に中年男性と小林の相性は最悪と言っても過言ではない。考えてみてほしい。会社でミスを連発しても先輩に教えを請うわけでもなく、サラサラヘアーを気にしながら仕事して、説教されながらクロワッサン食っちゃう後輩社員。しかもイケメンで女子社員からの人気はやたらと高い。正直、おっちゃんが一番理解できない人種である。「俺が若い頃は汗水垂らしながらもっとガムシャラにやったもんだ」なんて説教のひとつでもかましたくなる存在。それが最近は坊主頭で高校球児のように懸命にプレー。守備だけでなく、あれだけ打てなかった打撃でも泥臭くチームに貢献する日々。なんだよ格好いいじゃねえか侍ジャイアンツ。これまで厳しく接して悪かったよコバちゃん。なんかグッズでも買うからさ……。首にかけたタオルは、まさに勝手に小林と戦い続けたおっちゃんファンの歴史的和解の証明でもある。

 次戦はついにアメリカへ移動しての準決勝。負けたら終わりの世界甲子園もここからが本番だ。侍ジャパン28名。今、彼らを繋げているのは、「友情・努力・勝利」である。

 See you baseball freak……

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。