昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載春日太一の木曜邦画劇場

春日 太一
2017/03/28

忠義ゆえに苦しむ七人を演じ分ける中村錦之助!

『武士道残酷物語』

1963年作品(122分)/東映/4500円(税抜)/レンタルあり

 千葉真一や松方弘樹といった東映のレジェンドOBが口を揃えて「一番の時代劇俳優」と尊敬しているのが、中村錦之助(萬屋錦之介)である。

 一心太助、宮本武蔵、拝一刀、柳生宗矩――多くの当たり役をモノにしてきた錦之助を千葉は「あの人が演じると、その役柄のことを『本当にそういう人だったんじゃないか』と思えてくる」と評する。

 今回取り上げる『武士道残酷物語』は、まさにそんな錦之助の至芸を堪能できる。

 本作は江戸初期から現代まで、時系列順に七つのエピソードが並ぶオムニバス的な構成になっている。舞台となるのは、飯倉家。この家の人間たちは代々忠義を重んじてきたが、そのために横暴な主君たちに理不尽な目に遭う。

 そんな飯倉家の歴代の当主全員を錦之助は一人七役で演じている。驚くべきは、当主たちは皆それぞれに年齢も見た目も性格も異なるにもかかわらず、錦之助がその全てを完璧に演じ分けていることだ。

 戦国武将・次郎左衛門は歴戦をくぐり抜けてきた凄みの伝わる眼光の鋭さと落ち着いた貫禄で、その子・佐治衛門は凜々しい若さを放ちつつ、前髪の美少年・久太郎は無垢さを前面に出して、壮年の剣客・修蔵は精悍に、明治時代の車夫・進吾は爽やかに、特攻隊員・修は切なく、そして現代のサラリーマン・進は等身大に――錦之助の演技のバリエーションの豊富さに、ただひたすら舌を巻くのみだ。

 そして、彼らはほぼ、最終的には悲劇で終わる。錦之助が素晴らしいのは、その哀しみの演じ方もまた、シチュエーションや役柄の性格の違いによってそれぞれ異なるアプローチで表現していることだ。

 中でも圧巻なのが、修蔵の終局場面だ。藩のために我が娘を無理矢理に老中へ献上させられ、妻は主君に手籠めにされかけて自害。それでも、修蔵は感情を押し殺し、全てを受け止めてきた。が、それが最後に爆発する。修蔵は目隠しをしたまま相手を斬るという剣法を会得していて、主君の命で目隠しをして二人の「罪人」を斬ることになる。斬って初めて、修蔵は知る。手にかけた相手が自分の娘とその恋人だった――、と。

 この時の錦之助の演技が凄まじい。亡骸に近づき、怒りと悔恨の入り混じった表情で悲鳴のような慟哭をするのである。それまで全ての感情を飲み込んできたからこそ、この最後の感情の爆発がより痛切に迫る芝居になり、「取り返しのつかない悲劇」として観る側に突き刺さってくることになった。見事に計算され尽くした芝居だといえる。

「七通りの錦之助」に触れることで、この男の名優ぶりをぜひ体感してもらいたい。

はてなブックマークに追加