1964年作品(103分)
東映
VHSのみ
GYAO!で配信中

 一時期に比べればかなり改善されてきてはいるが、旧作邦画、特に時代劇は未だにDVDが出ないで、数十年前にVHSが出ただけという作品も少なくない。そのため、この連載で取り上げようと思った際に「さすがにこの名作ならDVD化されているだろう」とタカをくくってソフト事情を調べると、アテが外れるということは多々ある。

 今回取り上げる『仇討』も、そんな一本だ。主演・中村錦之助、監督・今井正、脚本・橋本忍という物凄い座組による傑作時代劇なのだが……。

 藩士の次男坊のため藩の役に付けない新八(錦之助)は、同僚の孫太夫(神山繁)との間の遺恨が元で果たし合いをし、勝利する。だが、事件を有耶無耶に終わらせようという大目付は新八を「狂人」として扱い、山奥の寺に幽閉した。

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 寺に入ってしばらくは心の平穏を取り戻していた新八だったが、孫太夫の弟・主馬(丹波哲郎)が兄の仇討に現れた。

 ここから物語は、多くの時代劇で美談として捉えられてきた「仇討」を皮肉な理不尽として描きながら、展開する。

 新八は心ならずもこれを返り討ちにした。そして今度は兄弟三男の辰之助(石立鉄男)が新八を仇と狙うことになる。

 実は、新八と辰之助は同じ無役同士で心を通わせた仲だった。これ以上の殺生が続くことを良しとしない新八は、辰之助に討たれる覚悟を固め、仇討の場に刃引きをした刀で向かうことにした。辰之助に討たれ、静かに死にたい。それだけが、新八の願いだった。

 藩はそれを許さなかった。重役たちはこれを衆人環視の見世物としたのだ。仇討が行われる場には、数多くの野次馬が取り囲み、出店も現れて金儲けをする輩(やから)まで出てきた。そこに現れた新八は野次馬から「人殺し!」と詰(なじ)られ、石が投げつけられる。しかも、辰之助には多くの助っ人が付いていた。「助太刀無用!」と叫ぶ新八の声は届かない。辰之助に斬られるのは構わないが、どこの誰か分からない者の手にはかかりたくない。が、肝心の辰之助は足がすくんで動けない。やむなく、新八は助っ人たちと斬り合うことに。

 新八自身がしてきたことには、何ら落ち度がない。それなのに、思い通りに生きられないどころか、死ぬこともできない。一つの理不尽が次の理不尽を呼び、新八はひたすらもがき苦しむしかない。しかも、錦之助が絶えず必死な表情で熱演しているため、その理不尽の抗(あらが)いようのなさが、さらに強調されていた。

 家でこの理不尽な世界に高画質で浸れれば、いくら現実で嫌な目にあっても「新八よりマシ」と思えてスッキリ眠れる気がする。そのためにも、ぜひDVD化をお願いしたい。