1957年作品(94分)
東映
2000円(税抜)
レンタルあり

 この六月十日、拙著『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』が文春文庫より刊行される。三年前に出た同名本に加筆して文庫化したもので、東映京都撮影所での六十年に及ぶ映画製作の裏側や人間模様を記したノンフィクションだ。そこで、しばらくは東映京都の映画を取り上げたい。

 東映京都が最も賑やかに稼働していたのは、一九五〇年代後半。ここで撮られる時代劇は次々とヒットを記録した。

 東映時代劇の特徴は、完全無欠のヒーローによる勧善懲悪の物語、豪華絢爛なセットや衣装に彩られた映像……とにかく単純明快で煌びやかな世界が展開していくことだ。

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 今回取り上げる『旗本退屈男 謎の蛇姫屋敷』は、そうした東映時代劇の要素が凝縮された作品といえるだろう。

 本作は、東映時代劇黄金期を代表する大スター市川右太衛門の代名詞的な役柄といえる「退屈男」こと早乙女主水之介が、必殺の「諸羽流青眼崩し」をもって悪を斬る人気シリーズの二十二作目だ。

 将軍暗殺を企む大老一味に対して主人公が正義の剣で挑んでいくという物語自体は、取り立てて語ることはない。驚くべきは、その映像ビジュアルだ。シリーズ初のワイドカラー作だけあって、どのカットも今までに増して広大なセットに色鮮やかな衣装や小道具がちりばめられ、余すことなくド派手なのである。情緒を重視しがちな近年の時代劇を見慣れた今の観客には、かえって新鮮に映るはずだ。

 特に、右太衛門の衣装。ほぼ1シーンごとに着替える上に、その全てが女物を仕立て直した柄物の華麗な着流しなのだ。そのためいつも物凄くカラフルで、自らの屋敷にいる際の普段着からして全身に花が配されていたのを皮切りに、夜陰に紛れて敵地に乗り込む際も、旅に出た道中でも、リアリティなどお構いなしに右太衛門は色とりどりの衣装を着続けた。そんな変化に目を奪われているうちに、次はどんな衣装で登場するかが楽しみになり、単純すぎる展開など気にならずにアッという間に時間が過ぎる。本作は、右太衛門のファッションショーを楽しむ映画なのである。

 圧巻は最終決戦の場面だ。右太衛門は、連獅子の真っ赤な鬘を被り、赤に金色の配された光輝く着物を身にまとって登場。一通り舞い踊って戦いの段になるとそれを脱ぎ捨てる。すると下からは白地に水色、空と雲の柄が配された、これまた鮮やかな衣装が現れるのだ。その変化の壮麗さに、思わず拍手したくなった。

 細かいことは気にせず、大スターの織り成す現実離れした世界の美しさに浸る――。文字通り、「時代劇の黄金時代」ならではの楽しみ方だ。