NHK大河ドラマ『真田丸』が終焉を迎えようとしている。ここ十年の大河では圧倒的な出来栄えであり、多くの視聴者が盛り上がっただけに、年末から来年にかけて訪れる可能性のある「真田ロス」を不安に思われる方もいるだろう。
そこで、今回と次回は、そんな心の穴を埋められるかもしれない真田モノの旧作邦画を取り上げていこうと思う。まず今回は『真田風雲録』だ。
旧作で真田を扱う際、そのほとんどは『真田丸』のような歴史劇ではなく、真田幸村を助けて徳川に立ち向かう架空の忍者たち「真田十勇士」の活躍を追った、忍術アクションになっている。本作もそれは変わらないのだが、十勇士たちの描かれ方が珍しい。
まず、その設定だ。通常、彼らは幸村や豊臣家の忠義のために戦うのだが、本作は違う。彼らの大半は「戦災孤児」という設定で、「自分たちのために、自分たちの戦いをする」と生き甲斐を求めて幸村(千秋実)と戦いを共にするのだ。
そんな十勇士なだけに、個々のキャスティングも一筋縄ではいかない。霧隠才蔵は猿飛佐助と恋に落ちる女忍者の設定になっていて、これを渡辺美佐子が演じている。さらに、ジェリー藤尾にミッキー・カーチスと、当時の人気歌手たちも十勇士に扮し、歌やギターで敵を翻弄する。
加藤泰監督は、彼らの戦いを時にミュージカルを交えつつ、コミカルに賑やかに演出している。にもかかわらず、作品全体を支配しているのは、そこはかとない寂寥感だった。
それは主人公の佐助(中村錦之助)によるものだ。佐助は生まれてすぐに隕石の放射能により、瞬間移動をしたり人の心を読んだり――という特殊能力を身につけていた。
驚くのは、時代劇スターが、超人的能力の持ち主を演じているにもかかわらず、本作では決してスーパーヒーローとして描かれていないことだ。
佐助は幼い頃からその能力のためにかえって孤立してしまい、人間不信の中で孤独に育ってきた。そのため、十勇士に加わっても決して彼らの輪に加わることはなく、いつも遠く屋根の上から彼らの喧騒を眺めているのだ。そんな佐助の引いた視線を通して物語は紡がれていくため、十勇士たちが楽しげに振る舞えば振る舞うほど、その様はどこか寂しげに映し出されている。
この演出が終盤になって効いてくる。結果として、最終的に何ら得るものなく空しく散っていった十勇士の戦いを物悲しく際立たせることになり、そのために観る側の心を強く鷲掴みにするからだ。
奇想天外な物語を通して展開される、哀しい人間ドラマ。大河のことを一旦忘れて、この機会にぜひ堪能してほしい。