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岩瀬 大輔
2017/03/31

30歳違いの「年の差コンビ」で仕事を円滑に進める技術

創業10年の教科書

「年の差でこぼこコンビ」の10年

 このたびライフネット生命は、2017年6月の株主総会をもって、会長の出口治明が退任することを発表しました。出口は、ともにライフネット生命を立ち上げた共同創業者です。

 出口の退任発表を控えた3月15日。早朝に都内のホテルに向かい、ゆっくりと朝食を食べて過ごしました。なぜか、一人になりたかった。慌ただしく駆け抜けてきた10年間を振り返りたくなったのかもしれません。

 2006年7月にニ人で机を並べて会社創りを始めてから10年余り。当時50代だった出口は若々しく、鋭気に満ちて、「ゼロから新しい生命保険会社を立ち上げ、業界を活性化させたい」という構想、あるいは野望に近いものを楽しそうに語ってくれました。そこに仲間が集まり、資本を出してくださる方が現れ、一つの生命体のように少しずつ成長を遂げてきました。

2006年頃の出口(左)と僕

 今年、ライフネット生命の契約者は15万人を超えましたが、生命保険会社としてはまだまだ小粒。創業時に二人で語った大きな夢には、まだ遠くもあります。ただ、インターネット生命保険という新しい保険の姿を提示し、業界の常識に様々な問題提起をし、それまで生保業界になかった一つの「世界観」を築きつつあることについて、僕は出口と歩んできたこの10年間をとても誇りに思っています。

 出口と僕が最初にテレビに取り上げられたとき、「年の差でこぼこコンビ」と呼ばれたことを覚えています。出口は、僕の父親と同い年。仕事を始めるにあたって、年の差が気にならなかったわけではありません。でも、やってみて気がついたことがあります。

 たとえ同年代であっても、気が合わない人はいっぱいいます。むしろ、気の合う人はほんの一握り。良くも悪くも、人は年をとっても、長所も短所も変わりません。年齢の差は大きな問題ではなく、価値観やものの見方、好きなものが合うことのほうが大事なのだと、出口と二人三脚で進む中で感じるようになりました。この10年間で、自分より20も30も年が離れた「友人」を多く作ることができ、その思いは強まる一方です。

ビジネスに必要な「素直さ」と「生意気さ」

 出口が僕について語ったインタビューで、次のように答えているのを読んだことがあります。

「岩瀬くんの最大の長所は素直さである。彼の素直さは、ハドリアヌス帝並みです」

 唐突にハドリアヌス帝(第14代ローマ皇帝)と比較されても、彼がどれくらい素直だったのかは僕には見当もつきません。ただ、世界史の中でもローマ皇帝が大好きな出口にとっては、これは最大級の賛辞だったのでしょう(読書家である出口がもっとも好きな本の一冊が「ハドリアヌス帝の回想」です)。

 自分の長所を「素直さ」だと考えたこともなかった僕にとって、出口の言葉は意外でした。思ったことをすぐ口にする率直さは「生意気」という短所になっていると思っていたくらいです。

 僕は、自分にとって耳が痛いフィードバックも喜んで聞くタイプです。取り入れた方がいいと思う指摘があればすぐに取り入れて改善するようにしています。自らの欠点や足りないところを指摘されると、それが図星であればあるほど落ち込みますが、「改善できたら、職業人としてさらに成長できる」という思いが常にあります。謙虚だからというわけではなく、指摘されて受け入れる方が、よりよい仕事をする上で「得」だと思うからです。

 だからこそ、自分もよかれと思って相手へのフィードバックもどんどんしてしまう。すると「いや、それは違うんです」と反論する人が意外に多いことに気が付きました。それなりにキャリアを積んでいる人でも、褒めると喜び、ネガティブな指摘をすると落ち込みます。

 そう考えると、人の意見を嫌がらずに聞ける「素直さ」は、自分の強みなのかもしれない。出口の言葉を目にして、そう思えるようになりました。そして同じ「素直」でも、インプットのときは相手の指摘を受け入れる素直さに、アウトプットのときは、率直に口にする「生意気」さになるのだと思います。

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大切なのは意見を受け入れる年配者の度量

 30近くも年が離れた出口との二人三脚がうまくいった秘訣として、僕の「生意気」を素直に受けとめ続けてくれた出口の姿勢が非常に大きいと思います。相手が年上の出口であっても、改善をした方がいいことや足りないと思う点はいつも遠慮なく指摘してきましたが、出口は気分を害することなく「本当にそうだね」「深く反省」などと言ってくれました。

 例えば、投資家へのプレゼンを終えた帰りのタクシー。「あのプレゼン内容はよくありませんでした。もっとこう話した方がよいのでは」と指摘したこともあります。僕の話を最後まで聞かずに反論してきた際には「話を最後まで聞かないのはよくありません。僕だけじゃなくて、社員の話も、途中で口を挟まずに聞いてほしい」と意見していました。

 生意気なアウトプットを受け止めてくれるから、こちらも意見を出しやすくなり、二人の関係はいい方向に発展していきます。共同創業者という関係に限らず、あらゆるビジネスシーンにおいて、年長者側の「耳を傾ける」姿勢はとても大切だと思います。

 もちろん、二人の関係が常に無風状態だったわけではありません。出口と意見がわかれたことも数知れず。内容は、経営に関する重大なことから、新年の挨拶は年賀状にするかメールにするかといった細かなものまでさまざまです。余談ですが、出口は「年賀状は儀礼的なものだから、メールでいい」と言っていました。僕が「年賀状のやりとりが減った今だからこそ、紙で出したい」と言って、若手社員にヒアリングして、出口に折れてもらったこともありました。

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それでも意見が分かれたとき、結論を出す3つのポイント

 二人の意見がわかれるときは、大体、下記の2つのパターンのいずれかであることに気づきました。

 1つは、意思決定の前提となるすべての事実が共有されていないこと。前提条件の認識にズレがあると、同じフィールドで話を進めることができず、意見の相違点の理解も深まりません。異なる事実認識のまま議論をして、いっこうに答えがまとまらないということは、多くの会社でも起こっていると思います。大事なことを議論するときは、必ずすべての前提条件をテーブルの上に並べようと意識してきました。

 2つ目は、結論に至る、お互いの評価の基準や視点がズレていること。仕事を始めたての頃、「AとBとCの観点から考えて、反対です」と僕が言うと、「そうだね。でも、さらにDとEとFの視点を考えると、結論は変わってこない?」と指摘されることがありました。短期的、長期的。定量的、定性的。あらゆる角度から物事を見る大切さを、僕は出口から学びました。世代が異なれば、物事の見え方や感じ方も異なります。それが異なっているという前提に立ち、視点をすべて共有すること。

 この二つができたら、あとは、「決め」だけの問題です。最後の意思決定をどちらがするのかを決めておけばいいのです。

 

 30近く年が離れていながら、「対等」な関係であるべき「共同創業者」だからこそ、意見がわかれたときに、どうやって気持ちよく結論を導くかについては、常に工夫をしてきました。出口も相当に気を遣ってくれていたと思います。

 出口との二人三脚で学んだコミュニケーション術を、これからは他の経営者やビジネスパートナーとの関係構築においても、発揮するときがきたのかなと感じています。

(構成=田中瑠子)