文春オンライン

カーシェア事業の「カラクリ」

シェアリングエコノミー1年目の教科書 #1

2017/02/07

たこ焼きからカーシェアへ

 2017年は変化と挑戦の年にしよう。そう心に誓い、前から気になっていたことを一つずつ試してみることにしました。第一弾が「カーシェア」。宣伝用のぼりがはためく駐車場を通りすぎるたびに「どういう仕組みになっているのだろう」と好奇心をそそられていました。

 今回、カーシェアを使ってみる直接の引き金となったのは、目黒は大鳥神社界隈のたこ焼き専門店「頑固蛸」です。インパクトがある直球勝負の店名もさることながら、生地・ソース・鰹節・温度、ディテールへのこだわりの強さはホームページからも伝わってきます。例えば、生地については、「食感に『トロミ』を出すために小麦粉澱粉を加えたもので生地をそのまま飲んでも美味しいと評価していただけるものを作り上げました」とあります。

 「カレーは飲み物」というキャッチコピーがありましたが、当店は「たこ焼きは飲み物」という高みにまで持っていっていることに感銘を受けます。

ADVERTISEMENT

 さて、たこ焼きからカーシェアへ、どう繋がるのか。週末に早朝ランニングで少し遠出をしたところ、偶然にもこのお店の前を通りかかり、営業時間に来てみたいという衝動にかられました。しかし交通の便がよくない。そこで、前から気になっていたカーシェアが登場するわけです。ランニングから帰宅してシャワーを浴び、会員カード発行を受け付ける店舗に向かいました。

「15分206円」の衝撃

 利用してみて、その便利さに驚きました。

 まず、15分206円というシンプルな価格設定。使った分だけ払う仕組みです。返却時に給油の手間もコストもなし。自動車保険料も駐車場代も車検費用もかからないので、利用が週末など限定されている人にとっては、大幅なコストダウンになります。

 また、スマホで予約をすれば会員カードで直接開錠して乗車できる仕組みなので、レンタカーのように利用時にカウンターで行列に並ぶ必要も無し。事前に登録したクレジットカードから決済されるので、車両は借りた駐車場に乗り捨てるだけ。

©iStock 

 興味深かったのは、この利便性を実現するために、従来のレンタカーの「常識」では考えられない諸々の工夫がされていることです。例えば、利用開始と返却時の確認作業(車体に傷がないか等)がない。利用時間が短いから事故発生率が低い上に、決済情報は保有しているので「取りっぱぐれ」リスクは微小なのでしょう。返却時にはガソリンを満タンにする義務もない一方、利用時間帯によってはガソリンが半分くらいしか入っていないこともあります(足りない場合は自分で給油をする)。これも従来の常識からすれば「不公平」ということになりかねないのですが、割り切っているのでしょう。

 この例を通じて、先進的に便利なサービスを構築するにはテクノロジーだけでなく運用面で従来の常識にとらわれない「割り切り」が必要だということに気が付きました。これが多くの企業にとって、決して簡単なことではないのです

 よく考えてみると、これは消費者同士で貸し借りをする狭義の「シェアリング・エコノミー」ではなく、あくまでもレンタカーサービスです。違いは、スマホひとつで使いたいときに、使いたい場所ですぐに使えることと、15分単位でしか課金されないこと。その本質は「オンデマンド型サービス」とでも呼べましょうか。

 そんな「時間限定のマイカー」を乗りながら考えたのは、世の中にはこのようにテクノロジーを活用して劇的に生活を便利にする新しいサービスで、気がつかずに使わずにいるものが溢れているのだろうということ、そしてそれらを賢く使いこなす人たちはコストを抑えて生活の質を高められることができるだろうということです。私の場合、偶然にも自宅から徒歩30秒の駐車場でも提供されていたこともあり、最近ではほとんど「マイカー」状態です。なんでもっと早く使わなかったのだろう?そう自分に聞きたくもなります。

投資家説明資料からビジネスのカラクリを理解する

©iStock

 それにしても、1分前までペナルティ無しでキャンセル可能、ガソリン代も自動車保険料も不要。ここまで利用者に寄り添った便利なサービスであれば企業は収益が出てないのではないか。そう考え「カーシェア 収益性」のキーワードでネット検索をしてみました。すると、カーシェアは30社以上が提供しているものの軒並み赤字であることと、黒字化しているのはその大手一社のみ、という記事を発見しました。

 高い利便性と収益を両立させているコスト構造、ビジネスモデルはいったいどうなっているのだろう。もっと知りたいと思い、その会社の投資家向け決算説明会資料を見てみました。

 開始から7年目の年に黒字化を達成、全国1万6千台の車両で売上約200億円、営業利益約30億円をあげていることが分かりました。直近では自動車一台辺り月額1.6万円の利益を挙げている。まさに塵も積もれば山となる。私の「愛車」も毎日コツコツ働き5、6千円の利益を上げているのかと思うと、不思議と自動車に対する愛着も高まるものです。

 このように、身の回りで気になる商品やサービスがあったら「カラクリ」を理解すべく、一次情報である決算説明資料にアクセスしてみることをお勧めします(上場企業であれば投資家向けページにて各種情報が開示されています)。

 次回は同じくシェアリング・エコノミーを代表するUberやAirBnBを使ってみた感想を書いてみようと思います。

(構成=田中瑠子)

カーシェア事業の「カラクリ」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー