若者から絶大な支持を受けるバンド
クリープハイプのヴォーカル&ギターをつとめる
尾崎さんが、初めての小説『祐介』を上梓。
小説を書いた今の心境を寄稿した。

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祐介

尾崎 世界観(著)

文藝春秋
2016年6月29日 発売

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 小説を書くということにどれ程の覚悟が必要か。「甘栗むいちゃいました」のような「ちゃいました感」で片手間に書いた小説など認めない。私の心の棚にお前の小説は差せない。何故なら、小説ではないからだ。文芸舐めんな。しょっぱい野郎だな、塩でも舐めとけ。

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 あなたの作る音楽が好きで、もっとあなたを理解出来ると思って買ったのに。あなたの「攻略本」だと思って買ったのに。意味のあることは何も書いていなかった。辛い。クソ、死ね。

 

 こんな両極端な意見に挟まれて、腐ったサンドウィッチの具になっています。どこにも居場所がない。アルバイト初日の休憩時間を思い出す。

 

尾崎世界観

 どうするんだ?「こんなことになるのなら、小説なんか書くんじゃなかったよ」俺がそう思ってしまったら。どうしてくれるんだ?

 どうにか踏みとどまってそうはならなかったから良かったものの。インターネットに溢れる言葉は凶器だ。人の心に深い傷をつけるには充分過ぎる。銃刀法違反のように言葉も取り締まったらいいのに。言刀法違反。資格を持っていないと使うことが許されない言葉があっても良いと思う。ことさらインターネット上においては。どこで何をしてるのかもわからないどうでも良い赤の他人の言葉なんかに左右されるなよ。と言われても、どこで何をしてるのかもわからないどうでも良い赤の他人の言葉だからこそ、気になって許せない。

 そもそも「尾崎世界観」というこのふざけた名前がわるい。ゴキブリホイホイみたいなものだ。さぁ、私でいっちゃってください。パッとやっちゃってくださいよ。と言ってるようなものだ。

 でも言いたい。放っておけよ。お前には関係ないだろう。お前、もっとやるべきことがあるだろう。

 例をあげるならば、夕方に何気なく見ていたテレビ神奈川辺りのローカル局の通販番組。

 富山県在住の大倉トキ枝さん〈76〉。

 幼少期から大きな病気もなく、活発に育ったトキ枝さんが趣味のゲートボールから遠ざかって早二年。長年通いつめたゲートボール場に、トキ枝さんのあの独特な「あっはいーあっはいーあっはいー」という掛け声はもう響かなくなった。

 それはある日突然の出来事でした。台所へ行く為に座椅子から立ち上がった瞬間に膝に激痛が。しばらく動けずにその場にうずくまってしまうトキ枝さん。一瞬の出来事が、元気だったトキ枝さんをドン底に突き落としました。

 夫の茂範さん〈75〉は眉をひそめてこう絞り出す。「本当に見ているのが辛い、出来ることなら私が代わってあげたい」

 そんな茂範さんがテレビCMで見つけて藁にもすがる思いで買い求めたライフサポートコラーゲン。その偶然が、必然を引き寄せた。

 ライフサポートコラーゲンの力で劇的に回復したトキ枝さんの膝。あれだけ苦労した階段の上り下りも全く苦にならなくなった。劇的な変化である。ただひとつだけ、あの時と変わらないことがある。それは今もしっかりと、階段の上り下りをするトキ枝さんの小さな手が茂範さんのしっかりとして頼り甲斐のある大きな手に包まれていること。ライフサポートコラーゲンのお陰で劇的に変化したもの、それと同時に変化せずにずっとそこにある確かなもの。トキ枝さんはその二つを手に入れた。

 ゲートボール場には今日も元気に「あっはいーあっはいーあっはいー」というトキ枝さんの掛け声が響いている。今なら1ヶ月分が送料無料で3980円。お問い合わせはこちらのフリーダイヤルまで。

 

 こんなCMがあったとするよ。それを見て、お前はわざわざまた乏しい語彙力をこねくり回して否定的なことを書き連ねるんだろう。もうやめよう。人のことは良いから自分のことをやろう。ライフサポートコラーゲン飲んで頑張ろうよ。ねっ。ライフサポートコラーゲン絶対効くから。俺が勝手に考えた架空の薬だけど。

 

 

 あぁ、エゴサーチやめたい。