忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は尾崎世界観さん。
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綺麗に終われない、最終回が苦手だ。
ある程度続けてきた物が終わる時の寂しさ、悔しさ、気恥ずかしさ。そんな物に憧れている。もっと「終わり」という物を噛み締めたい。あぁ、この終わり、よく沁みてるわぁ。やっぱり素材が違うとそのままでいけちゃうね。なんて言いながら日本酒の熱燗で流し込みたい。
終わりは何事にもあるけれど、それを別れと言われてしまえばなす術がない。今までどれだけの出来事を別れとして綺麗にラッピングしそびれてきただろう。都合良く涙で洗い流してしまえば、忘れたり忘れなかったりできるのに。
思えばアルバイトだって、綺麗に辞めることが出来なかった。人間関係が悪い、給料が安い、仕事が出来ずこのままだと会社に迷惑がかかる、様々な理由をつけては、立つ鳥跡を濁しまくっていた。
住んでいたアパートもそう。規約で定められた期間を過ぎて、大家に嫌味を言われながら決めた突然の引っ越しは慌ただしくて、片付けてるのか散らかしてるのかわからなくなるようなゴミだらけの部屋、無理やり敷いた布団に寝っ転がっていると妙な寂しさに襲われた。滞納している家賃分が妙に愛しくなって、ザラザラのカーペットを手のひらで撫でてみたりした。
この「1分書評」も、いつしか締め切りを過ぎるのが恒例になっていた。毎回、次こそはと思いながらも、家賃と一緒で、いちど滞納してしまえば癖になる。仕方ないじゃないか、忙しくて時間が取れないんだから。なんて開き直って甘え続けて来たことに、終わりが来てようやく気がつく。ぽっこりと空いた間抜けな数日が今になって寂しい。
彩瀬さんの文章は、綺麗過ぎてため息が出る。突然やってくる「別れ」そのもののような、有無を言わさない圧倒的な物。アルバイトの辞め方も、アパートの引き払い方も、1分書評の終わらせ方も不細工な自分とは真逆の物。
こうなったら、最後までめちゃくちゃで終わってやる。第一ね、これだけ一所懸命に、唸りながら書いた文章をね、1分で読まれたらね、たまったもんじゃないんだよ。それに、書評になってないじゃないか。とか、そんなことは自分が一番わかってるんだよ。ただね、ひとつ言いたいのはね。
長い間ありがとうございました。
またどこかで。
「1分で名著に出会える」をテーマにお届けした「1分書評」は今回をもって終了します。
ご愛読ありがとうございました。
(本の話WEB編集部)