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石川 結貴
2017/04/20

「スマホ育児」は是か非か 授乳もしつけもお任せの現実

便利さからハマる、その先にある『スマホ廃人』の危険

『スマホ廃人』(石川 結貴 著)

母子手帳アプリで赤ちゃんを管理 

 子育ての現場で、スマートフォン(以下スマホ)の活用が急速に広がっている。一部の自治体では母子手帳のアプリを提供、妊娠や出産、子どもの成長記録、予防接種歴、育児相談などが一元管理できる。

 わざわざ窓口に出向かなくてもスマホで対応可能となれば、言うまでもなく効率的だ。時間や手間をかけずにスマホを使えばいい――、子育て中の親たちがそう考えるのも自然な流れだろう。

 そんな彼らをターゲットに、育児・知育関連のスマホアプリ、コンテンツ市場が活況化している。「しつけ」、「遊び」、「トイレットトレーニング(オムツはずし)」、「寝かしつけ」など、子育てのさまざまな場面で専用アプリがそろう。

 たとえば「授乳アプリ」なら、その名のとおり授乳中に利用するアプリだ。出産経験のない人にはピンとこないだろうが、赤ちゃんに母乳を与える場合、どれくらいの量を飲んだか、目で見ることができない。そこで、授乳の時間や回数をアプリに入力し、記録をもとに「母乳が足りているかどうか」を確認する仕組みだ。

赤ちゃんにとっておっぱいは栄養だけでない。母親を確認し安心する大切な時間。©iStock.com

 ユーザーの母親たちは「便利」、「安心できる」と評価する。こうしたアプリが子育ての不安解消に役立っているのは確かだろうが、一方では赤ちゃんの反応よりもスマホの操作に注意が向きかねない。無心におっぱいを飲む子どもの顔を見ることもなく、スマホ片手に授乳アプリを起動。ついでにSNSや情報サイトをチェックして、夢中になるような母親もいるだろう。

 先に挙げた「しつけ」や「遊び」も同様だ。グズる我が子にせっせと声掛けしなくても、スマホ画面に現れた「鬼」が「食っちゃうぞー」と叱ってくれるアプリがある。親子で絵本を開いたり、積み木を積んだりしなくても、かわいいキャラクターの動画やゲームが次々に提供されている。ある母親(30歳)は幼児向けの無料アプリを「タダで使えるおもちゃ箱」と評したが、時間や手間のみならずお金もかからないというメリットが、子育て家庭を取り込んでいく。

スマホに子守りをさせないで! 日本小児科医会が警鐘

日本小児科医会はスマホの幼い子への使い方に警鐘を鳴らす。

 だが、こうした「スマホ育児」が子どもの成長や発達に影響を及ぼすことはないのだろうか。2013年、日本小児科医会は『スマホに子守りをさせないで!』というポスターを作製、育児アプリの利用や、スマホの操作を優先する親に対して警鐘を鳴らした。現場の小児科医を取材すると、実際に危機感を露わにする声が少なくない。

 それこそ「授乳」で言えば、赤ちゃんは単におっぱいを飲んでいるわけではないという。味を知る味覚、母親の声を聞き分ける聴覚、肌のぬくもりを感じる触覚などを学習しながら母乳を飲む。これらの感覚から得られる情報は脳の活動に影響を与え、社会性や共感性などの習得にも関わってくる。優しく抱かれたり、話しかけられたりすることで、他者への信頼感やコミュニケーション能力を育んでいくのだ。

赤ちゃんを引きつけるアプリがたくさんある。©iStock.com

 人としての基礎を築く大切な時期に、人工的なアプリの対応しか返ってこなかったり、親の関心がスマホにばかり向いていたら、幼い子どもは何を得られるだろう。利便性や効率性の半面で、生まれたときから「スマホ漬け」にされることのないよう、私もスマホ育児には警鐘を鳴らしたい。

 このたび上梓した『スマホ廃人』では、赤ちゃんから高齢者まで、スマホに翻弄される人々の実態を報告した。気づけばスマホを手放せなくなっている、そんな私たちに忍び寄る数々の問題にぜひ着目してほしい。

石川結貴(いしかわ・ゆうき)
ジャーナリスト。家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、出版のみならず新聞連載、テレビ出演、講演会など幅広く活動する

スマホ廃人 (文春新書)

石川 結貴(著)

文藝春秋
2017年4月20日 発売

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