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竹内 茂喜
2017/04/28

【中日】バルデスおじさんは今日も明日もボクらのために投げ続ける

文春野球コラム ペナントレース2017

不運を背負う悲しみのバルデス

貧打にも負けず
守乱にも負けず
花粉にも夏の暑さにも負けず
丈夫な身体を持ち
欲はなく
決して怒らず
いつも静かに笑っている……

 まさに現代版『雨ニモマケズ』を地で行くラウル・バルデス投手。野球の神様はどれだけ彼に試練を与えるのか。何を試しているのか。そんな思いがしてしまうほど、不運を背負って投げているように思えてならない。

 その姿にドラファンはともかく、対戦相手のファンまでもが同情する。その証拠に彼がマウンドを降りた後のYahoo!急上昇ワードには、きまって“バルデス”“バルデスおじさん”“悲しみのバルデス”等、彼絡みの言葉がベストテン上位に登場。彼のひたむきな姿に敵味方なく応援したいという気持ちが湧くのは自然の摂理なのかもしれない。

4月18日の阪神戦で力投するバルデス ©時事通信社

 来日して今年で3年目。ハードラックは来日初年度から始まった。初勝利を挙げたのは初先発からかれこれ10度目の登板で、それまでが苦難の連続。未勝利であった9度の登板のうち、8度のクオリティスタート(以下、QS。先発して6イニング以上を3自責点以内で抑えることを指す)を達成していたにも関わらず、彼が投げると不思議に打線が沈黙。勝利投手の権利をもってマウンドを降りたゲームも、終盤にリリーフが逆転される不運に泣かされ続けた。

 彼のピッチングスタイルは、打者に考える暇を与えないほどのちぎっては投げ、ちぎっては投げの往年のドラファンなら思わず「懐かしい!」と声を上げるであろう松本幸行を彷彿させる投球術。守る時間は当然短くなり、野手も攻撃に集中できるはずなのだが、事は上手く運ばない。先発した際の援護点はなんと平均2.8。3点取られれば確実に負けがつくという近代野球では有り得ない無惨な結果。

 QS率は66.7%。3回のうち2回は先発合格のハナマル印をもらいながら5勝8敗というなんとも不本意な数字を記録した。2年目の昨年も9回完封しながらも勝星がつかないという超ド級の不運は継続! QS率は相変わらず63.2%の高い数字を残しながら打線の援護なく、また外国人枠の兼合いもあり、わずか6勝という不完全燃焼のシーズンを送った。

 しかし彼は言う。いつもベストの投球をすることだけ。結果、勝ちがつけば嬉しいが色々な事が起きるのが野球。チームメイトは勝利のために頑張っている。……なんて殊勝なコメントなんだ! ここまで不遇な登板が続けば愚痴の一つや二つ、普通の人間ならこぼすところ。そんなナイスガイだからこそ、今年40歳を迎えるという体力的なリスクがあってもドラゴンズは再契約に踏み切ったのだろう。

敵も味方も虜にする奮投サウスポー

 そして3年目のシーズンとなる今年、時は4月1日の開幕第2戦。今季初先発となったこの日も、6回1/3を4安打1失点の好投。守護神・田島慎二が9回2死までリードを守ったものの、まさかの逆転サヨナラ被弾。エイプリルフールも相まって、中日ファンは「嘘だろ!」の大絶叫。

 先発3試合目のヤクルト戦でも7回2死まで0点に抑える熱投を見せるものの、一塁手・ビシエドがこれまたまさかまさかのフライ落球。目の前にあった勝星はまたしてもバルデスのもとから離れていった。橋田壽賀子も二の足を踏みそうな不幸のシナリオはいつまで続くのか? ここまで全世界の不運を一手に引き受けた感の強い中、不満の顔を見せることなく馬車馬の如く奮投していたバルデスだったからこそ、5試合目でのDeNAから勝ち取った勝利に多くのプロ野球ファンから祝福の声が届いた。悲しみのバルデスは消え失せ、不運という重い鎧を脱ぎ捨てた喜びのバルデスへと変身したのだ。

バルデスを活かす方法はただ一つ

 これからも黙々と淡々と中4日で投げ続ける。暑い日も何一つ文句を言わず、ローテーションを守ってくれるはずだ。ただ救援陣が手薄な現状、今後アラウホ、ロンドンの新外国人リリーバーの起用も予想される。貧打線であるが故、ビシエド、ゲレーロを外せない今、ようやく運気が回ってきたバルデスにとって外国人枠という自分ではどうしようもない“不運”にまたもや苦しめられるのだろうか。

 そこで考えた。バルデスを帰化させるってどうだろう。一攫千金を夢見て亡命までした彼のこと。外国人枠を気にすることなく、大いに日本で大金を手にしてもらおうじゃないか。そして彼がやめるというまで投げてもらおうじゃないか。今まで苦労してきた分、何も気にすることなく大きな翼を広げてもらいたい。

 もうどんどん妄想は膨らむ。帰化となれば日本姓が必要なはず。不惑の年齢、サウスポーとくれば、もう山本しかあるまい。名付けて『山本バル』。ワタシノナマエハ、ヤマモトバルデス! うん語呂もいいぞ!

 そして引退後もドラゴンズに籍を置き、キューバ選手の身元引受人になるのも良し、彼なら必ずや素晴らしい投手コーチになるに違いない。そのうち日本語も自然に身につけ、郷土の大先輩であるバルボンが関西弁を話すように流暢な名古屋弁を話してくれるのも楽しみだ。

「今日のボール、でらぁあええよ。打たれても頭チンチンになったらあかんでね」

 バルデスおじさんからおじいさんになっても彼の姿を見たい。ずっと見ていたい。それほど愛すべきキューバの野球小僧。いつまでも私たちファンにニヒルな笑顔を見せてくれ!

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

対戦中:VS 阪神タイガース(山田隆道)

※対戦とは同時刻に記事をアップして24時間でのHIT数を競うものです。