きょうはやめとこ。
きょうはやめとこ。
きょーうは....、や・め・と・こっ!

 あーまた呑んでもうた....。

 親愛なる大阪のブルースマン、野本有流(ある)兄の歌じゃないが、こりゃもうね、呑まないとやってられないっすわ。開幕から讀賣、広島の2カード終えて、まさかの1引き分けはさんでの5連敗。しかも今シーズンのドラゴンズがキャンプから掲げていた“走る野球”を逆手に取られ、守りの方でも隠れたエラーのミスだらけで負けが続いただけに、ヤケ酒の量も必然的に増えるってなもの。

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 抑えきれない感情をどこにぶつけたらいいのだろうと年甲斐もなく嘆き続けたこの一週間。でもね、もっと悔しい気持ちなのはプレーしている選手だってことはもちろん理解している。その中でも特にわざわざ開幕シリーズ、4月2日の讀賣との勝負を選び、玉砕された吉見一起は忸怩たる思いでいっぱいなのではと想像する。

2012年まで5年連続で2ケタ勝利を挙げていた吉見一起 ©文藝春秋

あの年以来、ドラゴンズのエースは空位のまま

 プロ入り3年目から主戦投手の仲間入りを果たし、落合監督時代は絶対的なエースとして君臨。川上憲伸、山本昌らベテランの背中を見て、帝王学を学んだ吉見。しかし好事魔多し。プロ入り前から痛めていた右肘痛を再発し、5年連続2ケタ勝利を収めた2012年シーズンを最後に離脱。2013年にトミージョン手術を受け、思い通りの投球ができない状態が続いた。

 ドラゴンズはエースを失うのと同時にBクラスに転落した。吉見は昨年ようやく先発ローテーションに返り咲き6勝を挙げたが、チームは最下位。吉見が消えたあの年以来、ドラゴンズのエースは空位のままだった。

若手を叱咤する吉見の姿

 エースの座を明け渡して4年。吉見は年齢もベテランの域にさしかかり、ここ数年、投手陣の脇に徹しているような振る舞いを見せていた。それが昨年、ローテーションに復帰してからというもの、事あるごとに若手を叱咤する発言が目立ってきた。

 たとえば、昨年8月の巨人戦。キャプテンに指名された平田良介がハーフスイングで三振に取られたことがあったが、一塁塁審に食い下がる訳でもなく、シュンとしてベンチに戻ってきた時に「下を向くな!」と激を飛ばした。今年のシーズン前にも「今の子らはすぐ群れる。仲良し過ぎるんです。プロは群れちゃダメ。今年は自分の背中で彼らを引っ張っていきたい」と、冷静かつ過激に叱咤激励した。

 そこにはまだまだ若い奴らには任せてられないという苛立ちと、万全に回復した身体を再び手に入れたことにより、もう一度熱い戦いの場でやれる自信が有言実行宣言につながったように思えてならない。

 私たちファンから見れば「オレが開幕を投げ、チームを引っ張る!」と公言した大野雄大はあくまで暫定エース。開幕戦6回6失点。見ていても分かるように、迫力、落ち着き、そして安定感はトップを張るエースとしてはまだまだ力不足だ。

 開幕投手を7度務めた川上は、ファンからも「川上なら絶対負けない」「開幕はいただきだ」と絶対的信頼を得ていた。吉見はその川上の背中を見て、何かを感じ取り、投球術を盗み取った。だからこそ成長の伸びが少ない大野や、その他若手投手らにエースの魂を授けたい一心で“物言うおっさん”の役を買って出たのだろう。

若手を引っ張っていく姿勢が見え始めた吉見一起 ©文藝春秋

元エースから再び真のエースへ

 だからこそ、開幕第3戦、吉見は絶対勝利を収めなければいけなかった。それが背中を見せてついてこいということ。ファンも吉見が連敗ストッパーとなってくれると信じていた。その絶対的“元”エースが負けた。

 でも、感じたね! この負けで吉見の闘争心に火がつき、さらに油が撒かれたに違いないと。「開幕を投げる」とか、「エースになる」とか、オレが投げているうちは軽々しく言わせないという静かなる叫びが聞こえた気がした。そして「もう一度エースの称号を取り戻す!」とも。

 その答えを見せるのが今日のDeNA戦だ。最下位争いだ、開幕からの連敗だなんてちっぽけなことはどうでもいい。いや、本当はよくない。よくないのだが、そんなことより、吉見だ。この開幕からの絶望的な状況をひっくり返すには、吉見しかいない。吉見なら「これがエースだ」という姿をマウンドでみせてくれるに違いない。今中慎二、山本昌、憲伸、そしてかつての吉見。絶望的な空気も流れも、変えることができる。それが“エース”と呼ばれる男だ。

 みんな、ナゴヤドームへ詰め掛けようじゃないか! 筒香との息詰まる勝負を目をかっ開いて堪能しようじゃないか! 吉見のこのプライドを賭けた一戦を見ろ。投手陣は全員吉見の一挙手一投足を細部まで見逃すな。そして、大野よ。一昨日もアレだった大野よ。いつまでも暫定エースというポジションに留まっていてはダメだ。俺はお前にずっと期待しているんだ。吉見と切磋琢磨し、近い将来吉見に「お前には勝てんわ」と言わせて欲しい。その日が近ければ近いほど、中日ドラゴンズの再建は早く訪れるんだ。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。