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宇野 維正
2017/06/03

日本のメディアが知らない、アリアナ・グランデの本当の「クールさ」

マンチェスター・テロ事件から13日後、再びステージに立つアリアナ。彼女が背負う使命とは?

genre : エンタメ, 音楽

 5月22日(現地時間)、ワールドツアー中のマンチェスター公演の終演直後に起こった卑劣なテロ事件によって、日本でも一般層にまでその名前が知れわたることになったアリアナ・グランデ。近年、日本の洋楽状況が停滞・衰退する中で、世界的スーパースターの人気に国内外で大きなギャップが生まれるようになってしまったが、そんな中にあって、もともとアリアナ・グランデはジャスティン・ビーバーと並んで日本にも比較的たくさんのファンがいるシンガーだ。

 その要因は、日本人好みのする少女っぽいキュートなルックス、日本人の女の子にとっても無理なくファンション・アイコンとして参考にできる華奢で小柄なスタイル(身長は153cm)、海外のスーパースターにしては珍しく積極的に日本のテレビ番組にも笑顔で出演する親しみやすいキャラクターなどなど、いくつか挙げられる。彼女の最新作『デンジャラス・ウーマン』のジャケットは、マスクを被ったクールで尖ったイメージのオリジナルのアートワークと違って、世界中で日本盤だけは楽屋でかわいらしい素顔を見せる別テイクの写真が使用されている。日本で彼女の人気が高いのは「たまたま」ではなく、そうした日本のレコード会社によるイメージのローカライズ戦略も貢献しているのだ。

『デンジャラス・ウーマン』日本版
『デンジャラス・ウーマン』国外盤

日本での受け入れられ方は「限定的」

 もちろんアリアナ・グランデの本業はシンガーであり、その活動の中心は音楽にある。しかし、その音楽の受け入れられ方も、海外と日本との間には少々ギャップがある。いや、ギャップというより、日本での受け入れられ方が「限定的」で、過去の洋楽スターのイメージを引きずっていると言った方が正確だろう。CDデビュー当初から「マライア・キャリーの再来」などとも言われてきた彼女は、実際に圧倒的な歌唱力と美声の持ち主であり、最近も『SING/シング』や『美女と野獣』と連続してハリウッドの人気アニメーション映画で大々的にフィーチャーされるなど(『SING/シング』のイルミネーション・スタジオと『美女と野獣』のディズニー・スタジオはライバル関係にあるアニメーション映画二大勢力であり、その両方から求められていることからも、いかに彼女が無敵のトップスターであるかがわかる)、人気、実力ともに現在のエンターテインメント界を代表する女性シンガーであることは間違いない。

 しかし、海外におけるアリアナへの支持は、そのような「正統派の人気シンガー」という枠から大きくはみ出たところにある。歌が上手いだけの子や、顔がかわいいだけの子や、ファッションへの嗅覚が優れているだけの子だったら、他にもたくさんいる。現在23歳のアリアナは、何よりもその世代における「最もクールな女の子」として憧れや崇拝の対象となっているのだ。

 スターの「クールさ」を測る基準はいくつかある。アリアナの場合、プライベートの素行がヤンキー的だったり(ボーイフレンドと訪れたドーナツ・ショップで棚にある商品のドーナツをペロリと舐めている動画が拡散されて警察沙汰になったこともある)、アングロサクソンではないこと(ギリシャ系アメリカ人の家族出身で祖父母には北アフリカの血も入っている。人種から分け隔てなく支持される上で実は重要なポイント)なども挙げられるが、一番大きいのは同業者、つまりミュージシャンの間での評価が非常に高いことだろう。

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