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燃え殻
2017/06/10

燃え殻さんが思い出す「人嫌いの祖父が見せた精いっぱいの笑顔」

燃え殻さんに聞いてみた。

Q 実家の母との距離感に悩んでいます

 母との距離感に悩んでます。母は聴覚障害者で、補聴器をつけて口元を見てギリギリ会話が出来る程度です。私は一人暮らしをしてますが、月に一度は実家に帰って母の用事に付き合ったり母と一緒に祖父母の様子を見に行ったりしています。母は私が帰ることに対してとても喜んでくれるのですが、私は母のかまってオーラに疲れてしまうことが多く、連休などで長い時間実家にいると息苦しくなってしまいます。でもいざアパートに帰ろうとすると母の寂しさがひしひしと伝わってきて、「ああ、もっと優しく接したらよかったな」と後悔することが多いのです。優しくしたいのに、疲れるとぶっきらぼうに当たってしまう。どうしたらいい距離感を保てるのでしょうか。(20代・女性)

A 優しいあなたでいられるために、あなたのペースを大事にしてください

 ボクの祖父は人嫌いでした。友達も作らず、最低限しか外に出ず、いつも野球のナイターを観ていた記憶しかありません。祖母が亡くなって、静岡県の沼津市で一人暮らしになった祖父の家に、ボクは何度か遊びに行きました。「今度、顔見に行くわ」と電話口で言うと、いつも心から喜んでくれて、お土産をもって出向いたものです。祖父はキレイ好きで、テレビのリモコンひとつとっても置いておく場所が決まっているような人でした。一緒に出前のそばを食べて、いつものように野球のナイターなんかを観ているとふと祖父が言うんです。「お前、いつ帰るんだい?」と。悪気はないんです。祖父は自分のペースがあって、どうしても長く人がいるとイライラしてきてしまう人でした。ボクはそのペースがだんだん分かってきて、晩年は早々に帰るようにしていました。人それぞれペースがあります。それはあなたにもあります。お母さまはきっとあなたが頼りです。あなたの幸せを願っているはずです。優しいあなたに会いたいはずです。あなたのペースをまず優先してください。長く続けられるペースを見つけてください。その後に、お母さまのペースを把握していきましょう。「優しくしたい、どうしたらいい距離感を保てるでしょうか?」というご質問でしたが、相手との距離感を快適にとれる人のことを、優しい人というのだと思います。お互いのペースのすり合わせに重点を置いて、接してみてください。

 祖父の家にボクが最後に訪れた日。いつものように野球中継が始まったのを見越して、ボクは帰りの準備をしはじめました。玄関でクツを履いているボクに、きっと買っておいてくれたであろう玉子サンドイッチと牛乳を、祖父はそっと渡してくれました。「よかったら新幹線で食べていきなさい」と、強ばった笑顔で。祖父がそんなことをしてくれたことは初めてで、ボクは少しこみ上げるものがありました。別れの時、足の悪かった祖父は玄関のドアに体重を預けながら彼なりに大きく大きく、角を曲がるまでずっと手を振ってくれていました。その祖父のなんとも言えない強ばった、でも彼なりの精一杯の笑顔を今でもボクは覚えています。きっとあの時、祖父も優しくできた自分が嬉しかったんじゃないだろうか、と今になって真相は分からないけれど、ふと思う時があります。

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